舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第13章 墨俣川 再生平氏
 しかし、丁度夜叉丸が京へ戻った頃には、清盛の死後、一門の総帥となった宗盛を中心に臨戦態勢が整えられていた。
 折しも頼朝の力が増大することを快く思わぬ源行家が三河、尾張で兵を集め乱世の流れに乗ろうとした。以仁王の令旨を諸国の源氏に伝えた策士新宮十郎行家である。
 戦支度をしている夜叉丸を鬼姫が訪ねてきた。戦闘態勢に入っているつもりなのだろう。目を中心に彩り鮮やかな隈取りを入れている。直接聞いたことはないが、長い付き合いでおそらく素顔の美しさが劣等感になっているのではないかと夜叉丸は推測している。
「夜叉丸、聞いたか? 源義円とは誰じゃ」
 義経と同腹の兄である義円が頼朝の代官として鎌倉を出立したという情報が入ってきた。幼名を乙若といい、天王寺に預けられていた。兄の挙兵を聞き、鎌倉へ駆けつけたといわれている。還俗して二十五歳になる。鬼姫は不機嫌に苛立っていた。
「出陣したいと随分兄上の惟盛殿を困らせておるそうではないか。ちゃんと土産を買って来てやるから都で大人しく留守をしておれ……いや、天下の鬼姫が出る戦ではない」
 慌てて煽て直した夜叉丸であったが間に合わなかった。言い終らぬうちに鬼姫の一番近くに置いてあった手頃な硯が飛んできた。夜叉丸は顔を少し硯の軌道から外すと何事もなかったように右手で受け取り元の文台の位置にそっと置いた。飛び散った墨が床を汚していた。
「危ないな、俺でなかったら死んでおるぞ。義経も出てこぬし、鬼姫が出ることはない」
「義経は何故出てこぬのじゃろう。頼朝とうまくいっておらぬのか?」
 鬼姫の口から義経の名を聞くと、夜叉丸は苛立つ。ついぞんざいに答えてしまった。
「さぁな、しかしその頼朝も出てこない。たいした戦ではないということだ」
「本当にたいした戦ではないのか?」
 夜叉丸に言いくるめられ納得し始めた鬼姫が思い直したように頭を激しく振った。
「でも総大将は重衡殿じゃ。忠度様、知度様も出られる。平家総がかりではないか」
「たいした事はないといっても気を抜いてはならぬ。激水の疾くして石を漂わすに至るは、勢なり。鷙鳥の疾くして毀折に至るは、節なり。このゆえに善く戦う者は、その勢は険にしてその節は短なり。というではないか」
「何をわからんことを言うておる。どういう意味じゃ?」
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