舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第11章 再会 梅花の娘
 辰の刻を過ぎた。北上川から流れてきた濃い朝靄もいつしか晴れ柳之御所で政務を執っていた秀衡は、ふと人の気配を感じて朝陽に輝く中庭に眼を移した。秀衡だけでなく周りに控えていた者達の誰もが気づかなかったようだ。いつからか烏帽子に狩衣、指貫姿の細面で眼光鋭い若者が柳之御所の中庭に群生する白い水仙の側で景色に同化するように佇んでいた。六位以下の正装である。
 秀衡の表情が俄かに変わった。彼は、柔和に目を細めると人払いをさせた。その公達然とした若者を側近くに呼び寄せ、秀衡用に出された餅をしきりに食べよとすすめた。
「これはこれは、右衛門少尉忠景殿ではござらぬか」
 既に秀衡は夜叉丸の任官を知っていた。つまり夜叉丸の近くにも秀衡の草の者が入り込んでいるのだろう。秀衡の笑い声の内にそれが窺える。
「夜叉丸で結構でございます。そのように申されてもまるで他人のように思えてなりませぬ。陸奥守様」
 夜叉丸は宮毘羅を都へ帰すとそのまま奥州に足を伸ばした。秀衡の草の者が集める情報が欲しいこともあったが、無性に秀衡に合いたくなったのだ。
「陸奥守はやめよ。わしも自分ではないようじゃ、秀衡でよい」
 義経が平泉を離れたせいか、政務を執る秀衡は遠目に見て何とも寂しそうな顔をしていた。その表情が夜叉丸を見つけた時、華やいだ。
――俺は、義経の次に愛されているかもしれない
 我が子のように接して歓待してくれる秀衡を見て、夜叉丸はそう感じた。父親を知らずに育った夜叉丸にとって、父の姿を秀衡に重ねていたのかもしれない。
「富士川ではご難儀なさったのう」
 労いとも皮肉ともつかぬ秀衡の言葉に夜叉丸は、苦笑するしかない。
「難儀というほどのことでは、……。何しろ一戦も交えずに逃げ帰ったものですから」
「富士川の瀬々の岩こす水よりも早くも落つるいせ平氏かな、などという落書が街道沿いに出ているそうな」
 夜叉丸も来る途中に「富士川に鎧は捨てつ墨染の衣たゞきよ後の世のため」と太い筆で書かれた落書を読んだ。
「上總守忠清のことじゃの」
 ふぉふぉふぉと、秀衡は扇で口を隠して可笑しそうに笑った。
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