舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第10章 富士川の水鳥
「風の便りに、平泉にいると聞いた、九郎義経とは、おまえか」
「はい、その昔は牛若、今は元服して九郎義経と申します」
「この頼朝が旗あげを聞いて、よくぞ遠くより駆けつけてくれた」
「何を仰います。伊豆に兄君がおられると聞かされ、毎日、伊豆の空を見上げておりました」
 義経は、頼朝を見あげた。想像した以上の立派な兄だったのだろう。義経の目が赤く充血し、今にも涙が溢れださんばかりである。
「さてもさてもよくぞ、来てくれた」
 頼朝はそう何度も繰り返し「もっと、近くに寄れ」と手招いた。
 頼朝は義経に近づき手を取ると、固く握り締めてみせた。義経は、嬉しさのあまり両肩を揺すりながら咽び泣く。この当時、人は感動すると人前でも憚らずによく泣いた。頼朝はそれとなく八幡太郎義家とその弟新羅三郎義光の邂逅の故事を引き合いに出した。
「先祖八幡殿の後三年の合戦に桃生(むなう)の城を攻められしに、多勢皆滅されて……」
 八幡太郎義家が、後三年の合戦で桃生の城を攻めたとき、多勢の味方が討たれてしまった。その時虫の知らせか弟新羅三郎義光が突然御所を抜け出し、奥州が気がかりだと二百騎で馳せ下る。途中より味方も三千騎に増え、厨川に駈け付け義家とともに戦い、ついに奥州を平定した。
「その時の義家様のご心中も、九郎義経が来た今のこの頼朝の気持ちに決して勝るとは言えないであろう。今日より後は、魚と水との如くにして、先祖の恥を雪ぎ、亡魂の憤を休めん」
 頼朝は義経を引き寄せ強く抱き締めた。
 その劇的な演出に、その場に居合わした武将らは、二人の対面をじっと見つめている。目頭を押さえる者、鼻をすする音が聞こえてきた。取り巻くように座した武将たちは源氏の血統の正当性をあらためて、認識させられた。夜叉丸は、はっと息を呑んだ。頼朝は、兄弟の邂逅の場面を借りて、名門源氏の嫡流なのだと支配の強化を演出したのだ。それは観客である夜叉丸にだけに頼朝の心が見えた。
 そして、この行為は頼朝へ人格的に帰依せしめる力を強めたようだ。
「今宵のことは、お父君のお引き合わせ。誠に八幡大菩薩の感應に違いなし」
 ここに会座した者は、皆袂を濡らして悉く満足した様子に酔い痴れている。
 ただ、頼朝に想定外のことが起きてしまったようだ。
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