舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第10章 富士川の水鳥
 夜霧に紛れて、静かに川を渡る集団がいた。夜叉丸と鬼姫衆の精鋭二十人である。少し距離をあけて金剛の率いる十名が、同様に水の中の浅瀬を選んで音も立てずに進んでいる。
 供に進軍してきた平氏の軍勢を見ていて、夜叉丸は一抹の不安を覚えていた。西国の飢饉による食糧難や道中の騒動などで駿河の富士川で敵と対峙したとき、平家の軍勢は疲弊し、わずか千数百騎ほどの数に減っていた。しかし、頼朝側は態勢を整え五、六万騎が行軍しており、富士川の対岸つまり東岸には先鋒部隊の甲斐源氏、武田勢四千騎が陣を張っていた。平家側が数の論理で既に負けている。軍議が撤退を嫌がる維盛のために紛糾したため、夜叉丸は忠度に願い出て夜襲をかけることにした。夜襲をかけ敵に一泡吹かせれば、維盛殿も意地を張らず撤退もできるだろうと考えての行動だった。
 しかし、計画が変更された。敵の武田勢の中に抜け駆けするものがあり、川の途中で出くわしてしまったのである。まだ、敵には気づかれてはいない。しかし、このまま見過ごして、あの志気の落ちた平氏の軍勢の中に夜襲をかけられれば、混乱状態になり何が起こるかわからない。夜叉丸は目を凝らして敵の人数を数えた。一五〇人ほどの手柄を立てたくて心がはやる武田勢は、対岸の平氏の陣営しか見ていないようだった。まさかすぐ近くに夜叉丸たちがいるとは、思ってもいない様子だった。
 金剛組も夜叉丸の支持を待っている。丁度、夜叉丸と金剛組で挟みこむ位置になった。
 夜叉丸は無言で事前に取り決めてあった攻撃の合図を出した。心得ていた弓隊が一斉に先走った武田勢の集団へ向け矢を放った。羅刹しか引けぬ五人張りの弓は更に磨きがかかったらしく、一本の矢で二人の武田勢を貫いた。
 突然の、矢継ぎ早に矢を射かける差矢懸かりの戦法に武田勢が乱れた。闇の恐怖に誰も悲鳴を上げて逃げ惑い斃された。
 夜叉丸が斬り込みの合図を出した。今夜の夜襲は中止せざるを得ないが、生きて自軍に戻られては面倒だ。逃げる武田勢はもう半分以下の人数になっていた。左右からの半包囲陣形をとり、矢で疲弊した武田方ひとりに鬼姫衆三人がけで息の根を止めるまで執拗に斬りつけた。この時代には珍しい集団戦である。
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