舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第9章 法皇幽閉と源三位頼政の煩悶
 夜叉丸が斃した男の血が下に垂れないよう端に死体を運ぶ最中に令旨の話が聞こえた。
 教経もまたひとり斃した。柱や梁のため狭い空間で太刀を操ることが難しく夜叉丸は途中から小太刀に換えて応戦していたのだが、横目で見た教経は普段と変わらぬ様子で太刀を振るっていた。
「して、令旨は、この頼政の手で諸国の源氏に?」
「お体をいたわりなさりませ。新宮十郎行家をわが蔵人に任じました。行家に託します」
 八条の女院であった。後白河院と異母兄妹で、鳥羽上皇から巨額な財産を相続している。その所領は莫大なもので、八条院庁領・安楽寿院領・歓喜光院領・智恵光院領・蓮華心院領など二二〇余箇所に及ぶ。後白河上皇の第三皇子で高倉上皇の異母兄にあたる以仁王は、八条院の養子となっていた。
そして行家が令旨の使いとして、まず女院の所領に旅立って行ったと告げた。
――すでに筋書きが出来上がっておったのか。源氏で最高位の年寄りを神輿のように担ぎ上げるという企み。いかん、もう令旨を止められぬ!
 組み付いて闘っている安陀羅が下から蹴り上げた時、相手の傀儡子が倒れて大きな音を出した。すぐさま夜叉丸がその男の後ろに廻り首をかき斬ったため、声は漏れなかったが、下から何事かと天井を見上げる気配がした。
 殿中であることに躊躇いながらも頼政の鯉口を切る微かな音が聞こえた。
 以仁王の人を呼ぶ声が天井裏まで響いてきた。
 離宮警護の武士団が鎧の音をたてながらあちこちから集合している気配が伝わってきた。
 夜叉丸の思考が一瞬止まった。この場を斬り抜ける手立てがない。最悪の選択ではあるが、このまま下に斬り込む決心をしたほどである。それでも絶対に我らの身元が露見してはならぬ。夜叉丸の体が凍った。
 ニャーゴ
 突然教経が猫の鳴き声を真似た。あまりにも上手すぎて夜叉丸は笑い声が盛れそうになるのを堪えた。もう一声調子に乗って教経が鳴いたのを合図に三人はその場を離れた。

 治承四年(一一八〇)四月九日以仁王が、平氏追討の令旨で全国の源氏に挙兵を促した。
「東海、東山、北陸三道の諸国源氏、ならびに、群兵等の所に下す。清盛法師、ならびに、従類叛逆の輩を早々追討して応ふべき事……右前の伊豆守正五位下源の朝臣仲綱宣べ、最勝親王の勅を奉って称く」
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