舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第8章 流鏑馬の勝負
 しかし、太刀捌きを完璧に極めたと自信を持っていた夜叉丸は、その慢心をいとも簡単に打ち砕かれた。
――教経は、化け物か?
 誰でも大抵は一挙動の攻めでも、二挙動の攻めでも動作が変化する一瞬に僅かな隙ができるはずなのに、教経にはそれが見えなかった。まさに流れる水であった。型にはまらず、夜叉丸の攻めに合わせて変幻自在に太刀が舞う。
「よほど弱いやつらばかり相手にしていたようだな」
 打ち据えられて大の字にひっくり返った夜叉丸に教経がわざと悪態をついた。「ほざけ!」と夜叉丸が、寝たまま木刀を投げつけたのを軽くかわした教経は、笑いながら夜叉丸の隣で大の字に寝た。
「昔よりは、強くなったな」
「一本も取れなかった。慰めにもならぬ」
 夜叉丸は敵わぬ悔しさもあり、わざと不貞腐れた表情をつくっていたが、頭上に広がる青空のように気持ちは爽やかだった。完敗だったのにこの爽快さは一体どうしたことか? 答えが知りたくて夜叉丸は横目で教経の横顔を眺めてみた。平家の公達に多く見られる優美さなど微塵もない、眉の凛々しい餓鬼大将面の教経と目が合った。
「そうじゃ、平泉で宿の娘と毎夜……」
「なに! やったのか? 俺はまだじゃというのに」
 話が終わらぬ内に教経は跳ね起きて、夜叉丸に馬乗りになり、ぐいぐいと首を締めてきた。「どうじゃった? どうせ醜女であろう! 手篭めにしたのか?」と教経が悔しそうに繰り返す。
「馬鹿者、誰が手篭などするものか。娘が夜這って来たのよ。吾の勝ちじゃ!」
 息のできない夜叉丸は、教経の締め付ける指をこじ開け、逆に馬乗りになると大袈裟に勝ち誇って首を絞めた。
「鬼姫に言いつけるぞ!」
 教経が苦し紛れに叫んだ。
 夜叉丸の動きが止まった。呼吸することも忘れた顔をして固まった夜叉丸を笑いながら教経がゆっくり身体を起こし、狩衣の土埃を払った。
「馬鹿め! 知らぬと思ったか? そんなことおぬしの態度を見ていれば誰でもわかる。知らぬは鬼姫くらいなものじゃ」
 知らぬは鬼姫……
 それは、寂しさと僅かに安堵する気持ちが混ざり合った複雑な感情で夜叉丸を包んだ。
――そんなことは……、そんなことは俺も知っている。鬼姫が俺を見る目は、教経を見る目と同じだ。
「鬼姫を奪え!」教経が夜叉丸の耳元で囁いた。「そして、鬼姫の心の中の男を追い出せ!」と添えた。
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