舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第7章 旭日と朝霧 藤原秀衡
 秀衡の言葉に夜叉丸は黙って頷いた。
「この世に最後まで生き残ることができるのは、誰か? 力の強き者か?」
 夜叉丸は、首を横に振って見せた。ふいに問われて言葉が出なかったせいでもあるが、直感的に否定した。
「浅学なれど、天意に叛くは力政であると主より聞いたことがございます」
 武力で支配して政治を行うことを力政という。墨子の一説を引いた夜叉丸に「そちの主は何者じゃ? やはりな、儂の目に狂いはなかった。剣技だけの若者ではない」と秀衡は夜叉丸の顔を凝視した。更にこの若者に興味を抱いたという様子で相好を崩した。
「若いのに物知りじゃ、厭味も無い。その通り、最も力の強い者ではない。ならば、最も賢き者か? だが、さにあらず」
 如何に考えるかと秀衡が夜叉丸を試すように意地悪く笑ったが、夜叉丸は返答できない。
――力の強き者ではなく、最も賢き者でもないとすると、その二つを持たぬ者か? 否、そういう範疇で考えてはいけないということだろう。では、この世に最後まで生き残るとは?
 夜叉丸は秀衡の術中に嵌まっていく自分を感じた。しかし、それは決して不快な被虐感ではなく不思議な心地よさを伴っていた。
「世の中の変化に差し向かい、己自身を変化させ続けた者だけが生き残る。案ずるな、わしは、けっして白川の関を越える気はない。分をわきまえておるつもりじゃ。しかし、我が奥州の地を守るためには蛇にもなる。そう心得よ」
 奥州の安寧に話が及んだ時、突然仏のようだった秀衡が、全てを打ち砕く力強い不動明王の威容を見せた。夜叉丸は思わず息を呑んだ。

 頼朝が源氏の嫡男だからなのか、平家に対する反感からなのか、流人の頼朝のもとには豪族達の師弟が多く出入りしていた。立場の弱い武士はのちに頼朝が力を持った時の保険の意味もあって頼朝と通じ合っていたのかもしれない。そのため流人とはいえ、頼朝は集まった豪族の息子達を連れて狩りに行くなど、存外自由な生活ぶりであったらしい。関東の武士は決して平家に満足していない。
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