舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第7章 旭日と朝霧 藤原秀衡
 夜叉丸は、もはや秀衡本人にあたるしかないと偏狭に考えている。夜叉丸はこの行動が果たして奥州に来た使命の範疇かどうか、彼にしては珍しく判断する力を失っていた。義経が「六韜三略」で鬼一法眼と騒いだ時、冷ややかに軽侮していた彼は、今義経と同じ過ちを犯そうとしていることに気付いていない。
 夜叉丸は、真っ直ぐ秀衡の寝所に進み警護の者を当て身で眠らせると冷たく光る太刀を抜き秀衡の首に当てた。泰然とした秀衡はゆっくりと上体を起こすと夜叉丸に対座した。
 目が合った瞬間、夜叉丸は秀衡の得体の知れない慈眼に晒され構えが乱れた。秀衡の何事にも恐れない毅然とした物腰にではなく、夜叉丸の荒寥とした心の奥底までを看破し、それを慈しむ温かい視線に夜叉丸は怯み、焦った。
「昼間の若者か、那須の国の住人須藤何某かと申したが本当の名ではなかろう。何者ぞ」
 穏やかで重厚な秀衡の物言いに夜叉丸は意想外にも即答してしまった。
「柚木……夜叉丸」
――馬鹿な! 俺は、何を律儀に喋っておるのだ。
 馬鹿正直に名乗りをあげてしまった自分に驚いた。刺客として育てられ、決してわが身を明かさぬ訓練を積んでいた。だが、がっしりした上半身の上にのった角張った大きな入道顔の秀衡に見据えられると嘘がつけなくなる自分が不思議だった。決して畏縮したわけではない。まだ、夜叉丸の太刀は秀衡の喉元を照準として構えており、切っ先まで凄まじい気迫が込められている。
 今、その場凌ぎの姑息さを微塵でも見せようものなら、その場で彼の精神が崩壊してしまいそうな錯覚に襲われた。夜叉丸が朝霧ならば、秀衡は中空を差し上る朝陽であった。夜叉丸は、今まさに太陽の熱に溶かされようとしている。
「主は?」
 返答を促す秀衡の視線に抗うように夜叉丸は、沈黙しようとした。抵抗という名の沈黙は、長くもあり、そうでもなかったかもしれない。
 秀衡から発散される気に、夜叉丸の切っ先から緩やかに殺気が消えていった。
――天下の安寧を強く望む方にて候えば……
 口から忠度の名が漏れそうになった。それが夜叉丸の完敗した瞬間であった。
「なんとも豪奢な太刀じゃ。それにそちの隠せぬ都ぶり、平氏と見たが、如何に?」
 正体を明かさぬ夜叉丸ではあったが、秀衡は矯めつ眇めつ観察して確信を持ったようだ。
「それで平家の若武者がわしに何のようじゃ。このような夜更けに」
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