舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第2章 平氏の剣
「六波羅へ行け。このまま真直ぐ朱雀門に向かって歩き、五条のあたりで右手に折れよ。その突き当り付近でもう一度人に尋ねるがよい」
 六波羅第は、鴨川の東、六条河原の末に位置している。平氏一門の重要な邸宅が並ぶ。もとは一町四方であったものが清盛のころには二十余町に及ぶようになっていた。清盛の邸宅は泉殿、頼盛の池殿、惣門の脇に教盛の門脇殿、東南の小松谷に重盛の小松殿といった平氏一門の重要な邸宅が建ち並んでいる。
 昼過ぎ、松寿丸一行は戸惑いながらも導かれるようにして、道を聞くために小松谷にある平清盛の嫡男で後の内大臣平重盛邸の門を叩いた。

 偶々在宅していた重盛が事情を聞いて訴えを聞いてくれることになり、権蔵だけが中に招き入れられてから大分時間が経った。
 権蔵が証文、添書を示し、叔父らの非を訴えていた頃、松寿丸ら兄弟は屋敷の門前で忠義の志厚い下僕を待っていた。弟の幸菊丸は拾った笹で地面に絵を描いて遊んでいる。まだ昼を少しまわったところであった。松寿丸は手頃な石の上に腰を下ろし往来を眺めていた。通り過ぎていく者は身分の高低にかかわらず皆一様に垢抜けており、その景色の中に溶け込めぬ埃まみれの自分を恥じた。着物は擦り切れ、痩せた足は無数の傷から出た血で赤黒くなっている。通り過ぎる他人の視線に敵意を感じた。
――田舎者だと侮るな。みんなぶっ殺す!
 己の不安を消したくて彼は、目の前にいるすべての街人を睨みつけた。
 美しく優しかった母も死んだ。厳しく強かった兄も死んでしまった。もう、この世には、幸菊丸しかおらぬ。住む家もない。これからいったいどうすればよいのか。腹を空かし、死んだこともわからず死霊となって彷徨っていた乞食の子が我が身と重なった。
 暗澹たる思いで彼は、権蔵が道中赤樫の枝で作ってくれた四尺強の杖を抱き締めた。
 そんな時だった。松寿丸は、突然体中の皮膚が収縮するほどの緊張を感じた。同じ歳ほどの娘にいきなり声をかけられたのだが、傍に寄られたことにまったく気づかなかった。ふいに竦んだ心の内を悟られぬよう見返すと、目の周りから頬にかけて太く鮮やかな赤い紅をさし、真っ赤な直垂を着た、まるで鬼の子のような娘が、見下した高慢な態度で挑発してくる。都ではこんな奇抜な化粧が流行っているのかと松寿丸は訝しげな眼差しでその娘の顔を見上げた。
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