舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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発行者:鯉詞C
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第1章 萌し ―序
その灯りを避けるために松寿丸は注意深くそっと水干の袖を引いた。漂ってきた松脂の燃える臭いが鼻を刺激した。
 なかなか通り過ぎようとしない。その上、すぐ前で尿(いばり)を始めた。直近の雪を溶かしながら跳ねが彼の顔にかかり続ける。
――今動けば、爺と弟を巻き添えにしてしまうし、敵うはずもない
 強くなりたいと、彼は拳を握り締め唇を噛んで耐え、恐怖と戦った。
 突然、弟が目覚めたのか暢気に欠伸をして思いきり伸ばしたその手が笹を揺らした。辺りに不自然な音が響いてしまった。尿の途中であった男が不審に思ったらしく、先を行く仲間の呼ぶ声に「すぐ、参る」と大声で応えながら、藪を掻き分け顔を覗かせた。顔中に髭を生やした二十歳前後の大男だった。松寿丸の身体を不吉な衝撃が突きぬけた瞬間、横から細い皺だらけの腕が伸びた。権蔵が大男の首を掻くように引っ張り込んで素早く組み敷いたのだ。しかし、六十歳を越えて小柄で非力な爺の決死の急襲も、たやすくその屈強な雑兵に反転されてしまった。
「老いぼれが……」
 権蔵に跨った男が薄笑いを浮かべて必死で抗う権蔵の首筋に太刀先を当てた時、松寿丸の神刀が腰で甲高い鍔鳴りをたて震えた。その音に呼応するようにどこから現れたのか、赤茶色をした一匹の犬が男の目前をすばやく駆け抜け、低い唸り声で大男を威嚇し始めた。不意のことに男の動きが止まった。しかし、動きがとまったのは山犬の不可解な動きに気をとられただけではなかった。男は何が起こったのかわからない態で鈍い痛みの走った腰のあたりに恐る恐る目を落とした。そこには身体ごと勢いよくぶつかってきた松寿丸がいた。堪えていた怒りを一気に爆発させて鎧の隙間から小刀を両手でぐっと突き刺していく。男の腰から流れ出した生暖かい血が雪を溶かしながら広がった。爺はすぐさま体を入れ替えると、男の声が漏れないように体重をかけ、腰の鉈を引き抜き、首を掻き斬った。
 松寿丸は怯えて隣に身を寄せてきた弟の頭を抱きかかえ左手で彼の目を隠した。兄として男のひどくもがき苦しむ様子も、今までに見たこともない爺の凄まじい形相もなぜか幼い弟には見せてはならぬと思った。
 やがて、男は動かなくなった。
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