舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
アフィリエイトOK
発行者:鯉詞C
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第2章 平氏の剣
もっとも発作的に感情を爆発させる鬼姫と配下の間を取り持つ役割を与えられた格好になっているのだが、その環境を決して疎んではなかった。
 その鬼姫衆が、事件を起こした。
 嘉応二年十月(一一七〇)、晴れやかな装束を身に纏った従者を従えて、牛車は車輪を軋ませながらゆっくりと中御門通りを西へ下っていた。冬枯れた景色の中をまるで花びらが散るように雪の舞う夕暮れであった。簾の内には、摂政藤原基房が冷たいはずの冬の風を心地よく肌に受け半ば眠りながら揺られている。来年元服する帝の儀式打ち合わせのため、御所に向かう途中であった。
 人気のない猪熊堀川あたりで突然、牛車が停まった。いや、状況としては停められたといった方が正しいだろう。
 二人の赤い直垂をきた禿が行く手を塞いでいた。一人は弓を引き絞り、矢先を簾の内に向けている。
「平家の悪口を言う者はいないか」
「悪口雑言あらば、容赦はせぬ」
 二人の禿は歌でも歌っているかのようにそう繰り返した。
「六波羅の赤禿! 摂政藤原基房と知っての狼藉か?」
 相手が二人の童だということに多少危機感がなかったかもしれない。下僕らも赤禿だということで怯んだがそれも一瞬のことだった。そのうちの一人がいかがしたものかと困惑した顔で主人の基房の顔色を窺った。基房は煩わしそうに「行け」と命じた。禿が恐いのではない。今、勢いのある平氏とできれば諍いを起こしたくないが、摂政の我が身がたった二人の童に牛車を止められたとあっては、京の街雀に何を言われるかわからない。憂鬱になった。しかし、ただならぬ矢先の方向に警護の武士たちがぞろぞろと牛車を守るように取り囲んだ。二十人以上はいたかもしれない。ただそれは余りにおざなりの警護になった。何故なら彼らの目にも二人の幼い禿の悪戯としか見えていなかったせいだ。
「簾を上げよ、基房!」
 六尺棒を小脇に抱えた小さい方の禿が叫んだ。澄んだ高く鋭い声に気の弱い基房の体がすくんでしまったことを情けなく思った。基房は生まれながらの宮廷貴族であり、暴力から一番遠いところにいる。こんな状況に慣れていないせいかもしれない。
(女のような声じゃが、声変わりもしていない幼子か)と、基房は思った。だが、禿等の後に控えている平清盛に煩わしさを感じた。
18
最初 前へ 15161718192021 次へ 最後
ページへ 
小説家になろうのサイトにて1カ月で2000アクセスを達成しました。
TOP