舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第2章 平氏の剣
「幸菊丸も武士の子であろう。われらとともに稽古をしようぞ」と鬼姫から声がかかるたびに震えた。
 そんな彼らのやんちゃな交わりに目を細めて安堵する権蔵は、あの日以来ほとんど寝たきりの状態が続いていた。忠度のはからいで都の名医と名高い医師が何人も権蔵を診てくれたが、はかばかしくなかった。時折、気分のよい日には、兄弟に頼み身体を起こしてもらうと、西の空に向かって念仏を唱えた。
――光明遍照十方世界念仏衆生摂取不捨
『観無量寿経』であった。
「権爺、何じゃ、それは?」
 弟の幸菊丸は、念仏の持つ不思議な調べに興味を抱いて、その意味を何度も権蔵に尋ねた。権蔵は煩がらず、逆に問われることを喜んだ。
 法身仏の光明は、遍く世界を照らし、念仏を唱える衆生を残らず救い取ってくださると、権蔵は優しく幸菊丸に仏の道を説いて聞かせる。
「我らを残らず救ってくれるのか?」
 弟は、目を輝かせて、権蔵の話に聞き入った。自分を庇って死んだ母を忘れることのない幸菊丸である。
 権蔵が念仏を唱えるときは、幸菊丸も権蔵の口真似で手を合わせるようになった。
 夜叉丸は、そんな弱っていく権蔵を見るに耐えられず、一心不乱に祇園社で励んだ。
「世の平安を願うならば、力が必要じゃ。平時の時こそ戦を忘れてはならぬ。おぬしらは、これからの平氏の剣となれ。総帥清盛入道の剣となるのじゃ」
 忠度がふと洩らした。それを聞いた途端鬼姫と教経は体をうち震わせていた。忠度は公卿化していく平家に危惧を抱いていたのかも知れない。しかし、その場にいた夜叉丸にとってそんなことはどうでもよかった。皆と過ごしている時間が、掛け替えの無い安息の時となっていたのだ。

 忠度の屋敷に起居するようになって一年の月日が過ぎ、夜叉丸は十歳になった。背も伸びた夜叉丸はもう鬼姫に勝てずとも負けることはない。あるいは、その辺にいる大人にも負けないだろう。天性のものが忠度などのよい指導者や好敵手に恵まれ、開花したようだ。
 鬼姫は、三人だけの稽古に飽きるとよく夜叉丸を誘って市中に出た。
「今日はどこの組を鍛えてやろうか?」
 片手で木刀を素振りする鬼姫が楽しそうに笑う。
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