舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第17章 粟津浜の春霞
 それにしてもまこと透き通るような白き肌をしておることよ。鬼姫には人の赤い血が流れておらぬようじゃ。殺せ! 我も義仲殿を追ってあの雲のむこうに行くのじゃ……
「ええい、何をしている? 鬼姫、腕が鈍ったか! 汝が斬らぬならわらわは自分で我が喉を掻き斬るのみ」
 言うが早いか、巴は痛みに堪えながらも上半身だけ起こすと、死んだ義仲の方に向き直り、懐剣を抜いて構えた。鬼姫に背を向ける形になった。目を閉じ、天を仰ぎ、そして、ゆっくりと守り刀の切っ先を喉にあてた。
 間一髪、鬼姫から背中に飛びつかれ、懐剣を持つ手を渾身の力で押えつけられた。
「死んではならぬ。義仲殿は、生きよと申されたではないか」
 離せ! と巴はもがいた。
「巴が死んだら、誰が義仲殿の供養をするのじゃ。誰が兼平殿の供養をするのじゃ」
「何がわかる、我と殿のことを……。敵のおまえなどにわかるはずがないではないか!」
 振り向いて鬼姫を睨むと、巴は息を飲んだ。鬼姫が泣いていた。何故泣く。巴がそう思ったとき、抗っていた身体の力が少し抜けた。男が、巴の短剣を取り上げた。
「何者、鬼姫の仲間か?」
「そんなところだ。鬼姫はおぬしのために泣いている。倶利伽羅峠で戦って以来巴御前のことが好きなのだ。生きていて欲しいのだ。おまえを殺す気など最初からない。だから鎌倉軍の手の届かぬところまでおぬしを導いた。殺気がないことに気づかぬくらい連日の戦さで疲れ果てていたか。我らは義仲殿とおぬしらが話しているのを遠くより唇の動きで読んだ。義仲殿は巴御前に生きて欲しいと願っていることが手に取るように見えたぞ」
 巴は鬼姫の涙を見ているうちに気持ちの高ぶりがおさまってきた。鬼姫が続けた。
「巴は何故腹を庇う? 戦っていてわかった。ひょっとして義仲殿の御子がいるのか?」
 巴が絶句した。無理にみなぎらせていた体中の力が抜けていった。それと同時に敵対する気持ちが消えた。
「なんと…… ともに死ぬ気でいた我が子を庇っていたというのか? 自分でも気づかぬことを鬼姫は教えてくれた」
 巴が鬼姫の問いに泣き崩れた。鬼姫が抱き締めてくれた。
「それなら、なおさら巴は生きねばならぬ。巴は、母じゃ。それなのに死んでしまっては義仲殿があの世で悲しもうぞ」
 巴御前は、いつまでも鬼姫の優しさに抱かれたまま泣き続けた。
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