舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第17章 粟津浜の春霞
「なぜ、一思いに斬って来ぬ。わらわを虚仮にしておるのか? 鬼姫!」
 感情を殺した顔の鬼姫に黙殺された。鋭いが踏み込みの浅い鬼姫の太刀が、巴の太刀を弾き飛ばした。
「殺せ!」
 巴はその場に座り込んで天を仰いだ。もうすぐ義仲も武運が尽きるであろう。我らは何処までも一緒じゃ。地獄の世界でも義仲と兼平の兄と三人で閻魔を倒す。それも一興じゃ。今わらわの腹の中にいる愛しい義仲との新しい命も供に連れて行く。
 巴の澄んだ瞳から大粒の熱い涙が頬に降ってきた雪を溶かした。新しい命が私の中にいる。鬼姫に涙を見られたくなかったが、なぜか自分の意志では止めることができなかった。
 巴の捨てた太刀を鬼姫が、巴の手元に投げ寄こした。
「まだ、終わってはおらん。参れ! まだ義仲殿は生きておる。生きて戦っておられる」
 鬼姫の言葉に巴はもう一度太刀をとり、唇を噛んで鬼姫を睨んだ。

 兼平に自害を勧められた義仲は、一騎で粟津の松原に駆けていったが、薄氷の張った深田が解からず馬ごと沈んでしまった。西の方では場所により田下駄が必要な深い田がある。馬を煽っても、鞭で打っても動きもしなかった。
 焦った義仲が、身体を捻って兼平の方を振り返ったその瞬間、戦況を眺めていた夜叉丸の背中に冷たい汗が流れた。寒風の中を唸りながら飛んできた矢が内兜を貫いたのだ。義仲に追いついた三浦の石田次郎為久の狙い定めて射た矢であった。義仲の矢傷は深く、堪らず馬上で打ち伏した。そこに石田の郎等二人が駆けつけ、ついに首を捕って落としたのである。
 郎等の一人が太刀の先にその首を貫き、高く差し上げた。
「鬼神と聞こえし木曽殿を、石田次郎が召し取ったり!」
 それを聞いて、太刀先を口に含んだ兼平は、馬から真逆さまに飛び降りそのまま太刀に貫かれて死んだ。
 鎌倉の源氏軍から、一斉に大地を轟かす鯨波があがった。

 その鬨の声は、離れていた巴の元にも届いた。真一文字に払った太刀を再び鬼姫から弾き飛ばされ、仰向けに倒されたときだった。巴は大きく肩で息をしながら、流れてゆく雲を眺めた。涙が止まらなかった。声を立てぬのは鬼姫に対する意地だけである。
――般若のごとく冷たき顔をして、何故鬼姫はとどめを刺さぬ。叩きのめすだけ叩きのめしおって、わらわをいたぶっておるのか? 
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