舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第17章 粟津浜の春霞
 平家軍は、九州まで落ち延びたが、その後勢力を巻き返して、四国讃岐まで制圧して京奪還を狙っていた。
 平家は屋島を出て、摂津の国へ押し渡り、一ノ谷から生田の森にいたるまで強固な陣を張ることができた。山陽道南海道計十四か国を従え、軍勢は十万余騎。
 一ノ谷は、北は山、南は海に面している。侵入口は人ひとりが通れる程の幅で、北側は険峻な断崖に守られていた。あらゆる所に大石を積み上げ、棘のある木の枝を幾重にも外に向けて垣としていた。更に海の深い所には何艘もの船を繋ぎ、海からの進入を防いでいる。
 高櫓には四国九州から集められた多勢の兵が弓矢を構え、櫓の前にも防御の騎馬隊が幾重にもひしめき合っていた。方々で打ち鳴らす太鼓の音が陣内で響き渡り、雄叫びがいたるところから聞えてくる。それぞれの陣に立てられた夥しい数の平家の赤旗が春風に翻るさまは、まるで燃え盛る紅蓮の炎であった。
「夜叉丸、鎌倉が義仲討伐に動いたぞ」
 教経が西木戸に立てた鬼姫衆の陣に勢いよく馬で乗り入れてきた。
「頼朝が攻めてくるのか、総大将は誰じゃ?」
 ちょうどユカケを外していた鬼姫がそれを地面に叩きつけて立ち上がった。勢いよく倒れて転がった鬼姫の床几を夜叉丸が元の位置に戻しかけた時だった。教経の返事に夜叉丸の手が止まった。
「総大将は範頼じゃが、義経も兵を引き連れ、宇治川に陣を張ったと聞く」
――義経が来る!
 久しぶりに聞く名に夜叉丸の心が高鳴った。不思議と彼を憎悪する気持ちがいつのまにか薄らいでいる。むしろ心のどこかで、義仲軍に対し如何なる攻め方をするのか期待しているところがあった。
 鎌倉では頼朝が再三の上洛を促されながらもなかなか動かなかった。院の謀略に振り回される義仲を見ていて、奥州の脅威を理由に入京することを拒み続けていたようだ。
 また、後白河にしてみれば坂東で必要以上に勢力を伸ばし、時々院を恫喝する頼朝を籠絡し、都の守護を命ずることによって力を分散させ削いでしまおうという魂胆がある。
 そんな互いの腹の探り合いが続いていたが、さすがにいつまでも逆らってばかりはいられなくなったということかと夜叉丸は推測した。
 やはり、それでも自分は鎌倉を動かない。京の公家社会の中に姿を見せないでいることで、院と院の取り巻きに得体の知れない恐怖を与えるのに十分な効果があった。
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