舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第16章 京を捨てて
 忠度が箙(えびら)の中に巻物を入れるのを夜叉丸は見ている。おそらく和歌だ。俊成が勅撰和歌集をつくるという噂がある。主の心を推し量りながら、自分の生きてきた証しを俺は残せるだろうか、残せるならば何を、と夜叉丸は考えさせられた。
 かつて太刀の稽古とは別に、夜叉丸と鬼姫、そして教経は忠度から和歌の手ほどきを受けたことがある。まだ十代の前半の頃だった。出来上がったものを見て師匠の忠度は溜息をつき、「おぬしらは剣にのみ生きよ」とだけ言い残すともうそれきり和歌のことには触れなくなった。教経などは、和歌をつくることをはじめから諦め、忠度の似顔絵を描いて木に吊るされた。鬼姫がこのときとばかりに吊るされた教経を木刀で殴って喜んでいた。その時の想い出が笑いをともなって鮮明によみがえって来る。それは悲しい笑いであった。笑いながら再び戻ることのできないさびしさに一筋の熱い涙がこぼれた。
 忠度が再び俊成と出てきた。
「万一、屍を野に晒し憂き名を西海に流そうとも、これでこの世に思い残す事はなし。さらば暇申しあげる」
 そう言うが早いか、甲の緒を締め馬にうち乗り西を目指して歩ませた。
――前途程遠し、思ひを雁山の夕べの雲に馳す。後会期遥かなり、纓を鴻臚の涙に霑す
 忠度は高らかに詠いながら馬に揺られて行った。和漢朗詠集にある大江朝綱の作である。渤海の国の使者を都の鴻臚館に迎えた朝綱が、使者との別れを惜しんで詠じた漢詩であった。
 門前で見送る俊成は涙淵に沈み、いつまでも忠度の後姿を目で追い続けていた。
 忠度が夜叉丸を振り返った。思いが遂げられた清々しさが表情に溢れて見えた。
「夜叉丸にはすまぬことをした。偶然、幼きおぬしの見せてくれた天分に惹かれ、我と平氏の私欲のために刺客のごとく育ててしまった。許せ」
 夜叉丸は首を振り、即答した。
「然様に考えた事はございませぬ。忠度様は野良犬の如き我に真の生き様を教えてくださいました」
 夜叉丸は、故無く涙が零れ出し言葉が続けられなかった。
「鬼姫、の間違いではないか?」
 忠度は冷やかすように微笑するや馬に鞭をあて、返答に困った顔の夜叉丸に「挑め!」と駆けた。
 夜叉丸は闇の中で光を追い求めるごとく忠度を何処までも追いかけた。
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