舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第2章 平氏の剣
 近くに狼の吠える声が聞こえた。鬼姫が息を呑んだ。松寿丸の体の中から眠っていた力が暴走し木剣を伝わって飛び出そうとしているのを、教経が渾身の力で押し込んでいる。松寿丸の木剣と教経の木剣が小刻みに擦れ合い熱を持って煙が立ち昇ってきた。
 顔色を変えた忠度がすかさず教経に加勢し、覚醒した松寿丸の力を押し込めると、松寿丸は意識を失って倒れた。
 教経は松寿丸の肩を強く揺り動かしながら抱き起こすと素直に驚きの声をかけた。
「すまぬ。叔父上の加勢が無ければおぬしの力を跳ね返せなかった。凄まじき力だ」
 朦朧とした意識で松寿丸は首を横に振った。
「まこと、夜叉のような顔をしておった。まるで何かに取り憑かれたようじゃった」
 鬼姫が何か感心したように腕組みをして見下ろしている。
 松寿丸は、まだ頭がはっきりしなかった。
 忠度は、目を輝かせ松寿丸をじっと見詰めたままだ。
「気づいてはおるまいが、おぬしの力は、想像以上じゃ。ただ、その力は危うい。修練で、自分の思うままに操れるようにせねばならん」
――危うい力……
 松寿丸は、口の中でそう呟くと、あの奥出雲の雪景色が頭の中に浮かんだ。あの時、何があったのか全く思い出せない。ただ、自分が自分でなくなる感覚だけがよみがえってくる。それは例えようも無くおぞましい感覚であった。あの時も今と同じ、気を失っていた。そして、権蔵に抱き起こされたのだ。
「若のおかげじゃ、幸菊丸様と爺をお助けくだすった。さ、まだ京は遠くにございます。急ぎましょう」
 闇の中で権蔵の声を聞いた。見渡すと辺りには残忍に殺された五人の武者の死骸が転がっており、その周りを荒い息を吐く二十頭近い山犬達が徘徊していた。
 
 二ヶ月余経過した。六波羅の近くに宿を借りていたが、権蔵の持ち出した金が底をつき始めてきた。そろそろ春も終わろうとしている。
 そして、忠度の目当てもわからぬまま三人の習練は一日も休まずに続いている。いつしか太刀の稽古が終わっても松寿丸は立っていられるようになっていた。
「山犬よ、また、明日じゃな」
 山桜の花弁が舞い散る中、鬼姫は松寿丸にきれいに決められた右腕を押えたまま言った。いつからか松寿丸の呼称は、鬼姫の中で野良犬から山犬へと昇格していたが、無口な教経はそれを聞くたびに何度も心の底から鬼姫を叱った。
「明日はだめじゃ」
「なぜじゃ?」
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