舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第16章 京を捨てて
静に秀衡宛の書状を託した。奥州から頼朝を牽制して欲しいとしたためてある。義仲の息子を人質に取っている頼朝が義仲との大連合軍を組織し西国に攻めて来ぬとも限らない。平氏が西国で落ち着くまで、しばらく頼朝は鎌倉に釘付けにしたい。だが、珍しく静は京に残ると駄々を捏ね、何度も夜叉丸の身体を求めてきた。
 何とか宥めすかしてやっと静を送り出した夜叉丸は忠度の屋敷に行くと、ちょうど屋敷に火をかけるところであった。
「夜叉丸から預かった家伝の宝刀がまだ蔵の中じゃ。返さねばなるまいの」
 夜叉丸は、首を振った。先祖伝来の刀といえども、何故か二度とあの刀の力に触れてはいけないと感じた。奥出雲の山中でわが身を守ってくれはしたものの、まさしく邪剣であった。
「まことにあの刀は、妖刀。私にはあの力を抑え切れませぬ」
「よいのか?」
「よろしゅうございます。私には、忠度様から拝領した兼永がございます。これからは、この刀を家宝にする所存でございます」
 妖刀など携えずともすでに滅多なことでは誰にも負けぬ自負があるといった顔で夜叉丸は忠度の目を見返した。
 夜叉丸は一ノ谷の陣への出立を急かせると、忠度は「ついて来い」と命じた。

 五人の武者と夜叉丸を伴った忠度が夜陰にまぎれて駆けてきたのは、五条烏丸の三位藤原俊成卿の門前だった。
「忠度である」
 名乗りを挙げた途端、門の中はにわかに騒々しくなったが、「落武者が来た」とうろたえるばかりで開ける様子もない。院の変わり身の早さに心ならずも朝敵になってしまった平家に対し、手のひらを返したような世間の仕打ちには耐えるしかないのか。主忠度の心情を思いやると夜叉丸は悔しさに涙が零れ落ちた。
「三位殿に申したき事あって、薩摩守忠度が罷り越した。たとえ、門は開かずとも、申すべき事有り。近くへ立ち寄り給え」
 忠度は馬を降りて、中の俊成に聞こえよとばかりに大声で呼びかけた。
 門が静かに開いた。警護の者も連れずにひとりの男が立っていた。藤原俊成であった。
「忠度殿なれば、障りない。入られよ」
 俊成は静かにそう言うと、自ら門を開き、忠度を招き入れた。
「これよりは、私ひとりで行く。その方ら悪いがここで待っておれ」
 忠度は藤原俊成に一礼すると屋敷の中へ入っていった。
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