舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
第15章 倶利伽羅峠 対決巴御前
彼は鞭を入れながら次の奇襲戦法を考えた。吹き抜ける風に汗が飛ばされていく。豊富な良馬を産出する奥州で鍛錬した夜叉丸の経験が、今まで点でしかなかった戦闘に迅速な移動という概念を組み合わせていた。多分同じ時期に奥州にいた義経の影響かもしれない。
夜叉丸の頭の中は、考えられる幾通りもの奇襲の方法で満たされていった。
大将惟盛と通盛他かろうじて加賀の国まで引けたのは、七万余騎の内わずか二千余騎ばかりであった。今までの合戦で負けたことのない鬼姫衆は奇跡的にも全員無事であったが、精根つき果て見るも無残な有様であった。
「教経は何をしておる! なぜ軍を率いて出てこぬのじゃ」
鬼姫も疲労した体で周りに当り散らし憂さを晴らしていた。
「通盛殿が弟の能登守教経を副将にして援軍を遣して欲しいと再三要請したらしいが、宗盛殿が教経を離さぬらしい。自分の護衛として手放したくはないようだ」
鬼姫は、ふんと鼻を鳴らした。
夜叉丸は、京でも教経に期待する声が高まっていることを鬼姫に伝えたが、ここまで無残に叩きのばされた現実を直視すれば、教経といえどもこの状況を打開するのは無理だろうと思った。
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