舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第15章 倶利伽羅峠 対決巴御前
 互いに相手を認め始めた時だった。急に地面が雷鳴のような音をあげて激しく揺れ始めた。
「何事?」
 その場にいた敵も味方も対峙していることを一瞬忘れ、その音の方を向いた。
 角に刀を結びつけた数百頭の牛が、いっせいに平家の陣めがけて駆け上っていく。それぞれの牛の尻尾に茅の草が結び付けられ火薬が仕掛けられていた。それが爆発し、火に驚いた牛が必死に走り、その後ろを義仲軍が追い立てる。
 鬼姫と巴の間も何十頭という牛が暴れながら走り過ぎた。鬼姫と摩虎羅組の鬼姫衆たちは思わずそれぞれの近くにある木の上に逃げた。夜叉丸の言った火牛の計という言葉が頭を過った。
「巴! また再びまみえようぞ」
 鬼姫は平家の陣に向かって空を駆けた。しかし、真下を駆け抜ける牛の群れを追い抜けず嫌な胸騒ぎが治まらなかった。
 不意に箙を叩く音と鬨の声を後ろに聞き、平氏の軍団が振り返ると白旗が雲海の如くに翻っていた。
 次には大手より義仲率いる一万余騎が鬨の声を上げ、砺波山に隠した一万余騎、日の宮林に控える今井四郎の六千余騎も、同じく鬨を作った。前後四万余騎の喚く声が山々を揺るがして響き渡った。
 三方から同時に攻める義仲起死回生の夜襲に平家軍は、一瞬にして騒然となった。
 ついに見えぬ恐怖に襲われた平家軍は陣形も崩れ錯乱状態になり、手負いの牛群に圧倒されながら後ろの地獄谷へ我先にと落ちて行く。深い谷が、平家勢七万余騎で、埋め尽された。

 退却戦がはじまった。鬼姫衆は自ら殿についた。
 そして、夜叉丸は、引きながら防戦する困難さよりも前に踏み込むことを選んだ。退却路上にある津幡付近の竹藪に十二組の配下を潜め、予め決めてあった指の形で指示を伝えながら、追撃してくる義仲軍を待つことにした。
「もう、惟盛の兄上は落ち延びたであろうか?」
 鬼姫が息を殺して隣の夜叉丸に問いかけた。夜叉丸は前方を見たまま軽く頷いた。義仲軍の先鋒が迫ってくる。
 夜叉丸は大雑把にその数を数えた。
「手柄欲しさに駆けて来るぞ。数は、……三百」
 笹の葉をうず高く積んだそれぞれの持ち場に潜む鬼姫衆十二神将の幹部達が一斉に夜叉丸の指先に注目した。
「ここで食い止める!」
 十分引き付けたと判断した夜叉丸の右手の人差し指が勢いよく前方に突き出された。夜叉丸の後ろで限界まで張り詰めた蔓を断ち切る音が横に広がりながら続いていった。
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