舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第14章 静御前の神技
「夜叉丸が鼓を?」
 鬼姫が呆れた顔で夜叉丸を見た。幾分軽蔑する気持ちも込めて癇に障る溜息をついた。
「仕方ないだろ。館の間取りを調べるためにやったことじゃ」
「よいよい、言い訳はよせ、夜叉丸。ところで静とやら、頼む。夜叉丸の鼓で舞ってみせてくれぬか」と教経が夜叉丸をからかった。
 夜叉丸が待てという前に、静が承知いたしましたと頭を下げた。

 静は楽しげに、言い尽くせぬほどの美しい声で歌った。そしてその節回しは巧みに妖麗であった。
「……見事!」
 舞い終わった静に忠度が声をかけたのは、時の間を置いてからだった。皆、舞いの余韻にどこか別の世界へ誘われてしまった如く、顔が陶酔して上気していた。溜息をつく以外言葉を発せられなかった。歌舞音曲や歌を詠むことから一番遠い教経でさえ言葉を失っていた。
「そちが十歳のときにはじめて夜叉丸と会ったというのか。夜叉丸も一七八、その当時はまだ子供であろうに。『筒井筒井筒にかけしまろが丈 過ぎにけらしな妹見ざる間に』という心境じゃな、夜叉丸は」
 忠度は昔の歌をひいた。小さな子が落ちることのないように、堀井戸の周囲を井桁や井筒で囲む。井筒に刻んだ私の背丈は、君と逢わない間にとうに井筒の高さを越えてしまった。もう、子供ではない。
「『比べ越し振り分け髪も肩を過ぎ 君ならずして誰が揚げなむ』まさにこの歌の気持ちでございます」
 伊勢物語であった。静が覚えていたその返歌を示した。髪を揚げるとは既婚者の髪型である。あなたでなくて、私は誰の妻になるというのだということだろう。
 忠度は、「ほほぅ……」と感心して静を見る目が変わった。
 ずっと教経に揶揄され続けていた夜叉丸が、立ち上がった。
「静、平家一の武将教経殿にあれを見せてやれ」
 何のことかと静が小首を傾げた。夜叉丸はそれに答えず忠度に断り畳を裏返して柱に真直ぐ立てかけた。藁や真菰(まこも)を荒く編んだ薦(こも)を重ねて、筵(むしろ)を巻いたその畳の縁は、小紋の高麗縁で飾られている。
「教経殿、いざこちらにお立ち下され」
 夜叉丸は大袈裟なほど慇懃な物言いで、教経を畳の前に両手を広げさせ大の字に立たせると、静に「やれ!」と命じた。
「本当によろしゅうございますか?」
 察した静は改めて念を押した。そんな非礼なことをしてよいのかという心配があったが、夜叉丸は構わぬと言った。
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