舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺―
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/25
最終更新日:2011/09/25 11:22

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舞う蝶の果てや夢見る ―義経暗殺― 第14章 静御前の神技
 しかし、男のような振る舞いをしていても、鬢のあたりまでほんのりと上気した鬼姫の横顔は美しさを増していた。しばらく無意識に見惚れていたことを教経に悟られた夜叉丸は、慌てて話題を変えようとした。夜叉丸の顔の赤さは、葡萄酒のせいではない。教経が笑い転げるのを鬼姫が訝り、忠度が窘めた。
「ただ、どうも京のことが鎌倉に筒抜けのような気がする」
 そう夜叉丸が言い繕うと、忠度が杯の手を止めた。
「前右中弁平親宗の動きが気になる。夜叉丸、少し探ってはくれぬか」
 夜叉丸は黙って肯いた。
 前右中弁平親宗は平清盛室時子と母を同じくする弟で、建春門院平滋子と異母兄弟にあたる。法皇の近臣であった。親宗は前年十一月、清盛が政権を奪ったときに解官されている。
「後ろに煮ても食えぬ妖怪がいるのは明白じゃが、の」
 皆同じ顔を思い浮かべた。また、院が裏で動いている。忠度は、清盛没後、宗盛が政権を院に返し、後白河法皇の幽閉をといたことに憂いを見せていた。
 突然、屋敷の番人が庭に入って来て、叩頭した。
「忠景殿に会わせよという者を門前に待たせておりますが」
「誰じゃ?」
 夜叉丸は思わず人違いではないかと問うた。わざわざ門番を通して会いに来る知り合いなどいない。教経も鬼姫もそして鬼姫衆の幹部たちも勝手に入ってくるほどの馴染みである。門番がなんとも困った顔ではばかりながら声を潜めた。
「白拍子でございます……、それも天女のように美しき」
 教経が驚いた顔をして、夜叉丸の顔を覗いた。教経は夜叉丸が鬼姫以外の女性には関心がないと思っていた。教経の好奇心が叫ばせた。
「白拍子が夜叉丸に会いに来たとな。面白い! すぐ通せ」
 夜叉丸が一瞬頭を抱え込んだのを見逃さなかった教経は「やや児でもできたか?」とからかった。

――平泉から戻って来たのか……
 客間から一段降りた縁で恭しく額ずく静を見て夜叉丸は一ノ関の一夜を思い出した。
 立烏帽子、水干、単、紅長袴に錦包藤巻の太刀を佩び、手に紅の蝙蝠(かわほり)の扇、長い髪をうなじのあたりで縛って銅製の丈長をつけている静は、別人のようでもあった。夜叉丸は、薄化粧した静と顔を合わせると眩しく面映い気がした。
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