好きになったヒト
第11章 未練5
俺は受け取ったものの、開けるきにならない。
タカヤさんは、ごくごくと言い飲みっぷりだ。
俺のほうに寄ってくるとつまらなそうに俺を眺める。
「飲まねえの?飲みたくなくても、飲めよ。ちっとは気分も変わんだろ。」
「今飲んだら、タカヤさんにクダ巻きそうなんで。」
「巻きゃあいいさ。ぐるぐるに巻き付けよ。」
そう言って俺が手に持っていたビールを取り上げると、蓋を開けて俺に差し出す。
俺はそれを受け取って喉に流し込む。
思ったよりもおいしく感じられた。
正直缶ビールの一本くらいでは俺は酔わない。
一気に飲み干して、空になった缶を潰す。
「そんで?巻きついてくれんじゃねえの?」
タカヤさんは俺をからかうように言う。
「なにが楽しくて、タカヤさんに巻き付くんですか。それこそやってられませんよ。」
「お、いつもの調子がでてきたじゃねえか。」
タカヤさんはうれしそうに俺の隣の椅子に座って、挑発するかのように顔を近づける。
俺は空腹なところへ一気にアルコールを流し込んだ所為か少し頭がぼーっとしてきた。
俺の顔を覗き込むタカヤさんの顔をただ眺める。
ゆっくりとタカヤさんの顔が近ずく。
唇が重なる。
舌が割り込んでくる。
という、一連の流れは理解できていた。けれど、俺はただそれをどこか別のところから見ているような気分で、ひとごとのようで、ただされるがままだった。
タカヤさんの顔が離れる。
バチバチと目を瞬かせている。
「抵抗するとか、キスを返すとか、ねえの?」
「なにすんですか。セクハラで訴えますよ。」
俺はタカヤさんを睨みつける。
「おまえが元気ねえからさ、元気づけてやろうとおもってな。」
何食わぬ顔でそんなことを言って退ける。
俺を見つめ返す黒い瞳。本心の読みとれない目。まるで自分を見ているようで嫌になる。
「そんなんで元気になるのは、あんたに群がって来る女の子だけです。」
タカヤさんは俺をじっと見つめて、そして目を逸らした。タカヤさんも俺と同じことを思ったのだろか。自分に似ていると・・・。
タカヤさんは冷蔵庫からビールを何本も出して、テーブルに並べる。
職場の冷蔵庫にこんなに酒が詰まっているのも珍しい。
「飲むぞ。どうせしばらく雨もやまないだろうし。」
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