好きになったヒト
第11章 未練5
俺の仕事でさえ、ティーン部の事務所に顔を出す時間を作るのは結構難しい。藤村さんも忙しいときは来れないときも結構あったし。そう思うと、藤原さんは俺に会いに来てくれてたんだな。忙しかったろうに。まさか、それで仕事に支障が出て異動になったんだろうか、と今さらながら心配になった。
藤原さんの急な異動。今思えばおかしい。あの時は、藤原さんが去ったことがショックでそこまで頭が回らなかった。
藤村さんは担当を降りたって他へ移らないじゃないか。だいたいあの時期に異動なんて。
そりゃ、その他になんらかの俺達の知りえない何かが起こったと可能性は十分にあるけれど・・・。
藤原さんはあの後、別件で一度こっちに戻ってきてる。俺は会わなかったけれど。藤村さんのあの時の様子からしても、戻りづらい状況ではなかったってことだ。
端末を開いて、藤原さんが担当した最後方の案件を開く。
N高の薬物乱用。
俺が踏み込んで、警察の捜査が入って摘発になったとかならないとか。
普通に考えれば大手柄だ。けれど、踏み込んだのが俺、つまり、高校生部隊となると問題、だよな。
俺はしばらく画面を眺めていた。
そういうことか。
そういうことだったのか。俺の所為で・・・。
なのに、藤原さんは俺に恨みごとひとつ言わずに。いや、言う機会さえ与えなかったのは俺か。
目を閉じる。
俺がガキだったんだ。
俺はガキだったんだ。
よかれと思ってしたことだったのに。身の程を、自分の立場をわきまえずに、一番大切だった人を犠牲に・・・。
自分の身の程。
「マナト、まだいたのか。セイジは直帰するってよ。」
フロアで仕事をいていた俺は、外から戻ってきたタカヤさんに背後から声を掛けられて、振り返った。
「お疲れ様です。」
タカヤさんはびしょ濡れだ。
気付けば、雨が窓ガラスを叩く音がしている。けっこうな降りだ。
「あっと、なにか拭くものを。」
俺は自室にタオルを取りに行く。
こういう時のために一応常備してある。
戻ってタカヤさんに渡す。
「サンキュ。準備いいなおまえ。」
「たまたまです。梅雨ですからね。」
「まぁた、湿気た面して。今度はどうした?」
タカヤさんはワシャワシャと頭を拭きながら、俺を見る。
「俺の所為でした。」
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