好きになったヒト
第9章 未練3
その足でライブハウスへ向かう。
ユズルさん。
俺を支えてくれた人。
今朝、事務所に来たときには暗く沈んでいた気持ちが、どこか落ち着いていることに気が付く。
昔のことを思い出して、少し滅入っていた気分が変わったのかな。
思えば、ユズルさんは昔から動じない人だよな。いつも自分の視野をもってるっていうか。周りに振り回されたりしないし、俺のことを気づかう余裕まで備えてる。敵わない。
そんな人だからこそ待とうと思ったんだ。あの人がその気にならない限り、俺がどうしようがあの人は梃子でも動かない。俺が動かせるような人じゃないんだ。
その日のライブはいつもと少し違う気持ちでステージに立った。案の定それは歌に出たようで、久々にライブを見に来ていたアツキさんに指摘された。
来週また、ユズルさんに会いに行ってみよう。
ちょっとストーカーじみてるけれど、そうしていたらそのうち俺も何か変わるかもしれない。
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