好きになったヒト
第8章 未練2
いつもは外回りをしているが、今日は午前中に来客があったので昼飯を会社で取ることにした。
ビルを出る。コンビニへ向かって歩く。
「佐々木くん」
後ろから声を掛けられる。
同じ部署の女の子たちだ。
女の子といっても俺より先輩だけど。
「あ、どうも。」
「どこ行くの?」
「ああ、昼飯買いにコンビニまで。」
「そっか、今日は出ないの?」
「いえ、昼からはでますよ。」
「ねえ、ねえ、佐々木くんって彼女とかいるの?」
「え?」
「ごめんね、いきなり。でも、みんな知りたがってるんだ。でも社内じゃなかなかそんな話ししてる暇がないでしょ。佐々木くん、外出多いし。」
「えっと。」
どう答えようか考える。いると言っておいたほうがゴタゴタしなくてすむんだろうな。でも、嘘付くのもな、見栄張ってるみたいだし。
「いませんよ。」
「えー。なんで?」
「え・・・なんでって、言われても。なんででしょうね。」
俺はははっと笑う。
「そっか、そうなんだ。どんな子がタイプなの?」
「えーっと、タイプとかはあんまり。」
マナトみたいなかわいいやつ。
と、頭に浮かぶ。
さっさと買い物を済ませて、お先にと一人店を出る。
自分の頭に浮かんだ言葉に、ため息がでる。
いい加減にしろよな、俺も。
マナトは俺の事なんか忘れちまってるのかな。
自分から距離を置いておきながら、今さらながらマナトが恋しくなる。
散々荒れて、挙句に友達とヤろうなんて血迷って、でもできなくて、撃沈。
それから数週間。
社内の女の子からよく声を掛けられるようになった。
俺がフリーだって広まったか・・・。
「佐々木さんですよね。」
自販機の前でジュースを買っていると、声を掛けられた。
「え、ああ、はい。」
ああ、この子知ってる。かわいいって評判の子だ。
「突然すみません、私・・・」
「知ってますよ。竹田さんですよね。」
「え、」
「有名ですよ。」
俺はにこっと営業スマイルを返す。
「有名って、どういうことですか?それに佐々木さんだって有名ですよ。」
「ああ、俺の有名はドジでってことですよね。あ、でも有名人どうしですね。」
「違いますよ。」
否定しながらも、彼女はクスクスと笑う。
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