好きになったヒト
第8章 未練2
あいつといると、俺はマナトのことしか見えなくなる。
そんな自分にケリを付けたくて、離れた。
けれど、あいつのことを忘れたことなんてない。
必死で頭の隅へ押しやってる。
無理してる。
自覚してるさ。
でも、いつかそれにも慣れてしまえば、それが普通になれば・・・。
関係のある女の子は数人。
けれど、特定の子には巡り合っていない。
2月。一人暮らしの友達が来週にはアパートを引き払うとというので最後に飲み会。
さいきん、卒業前でハメを外した飲み会続きだ。
「佐々木ー。おまえ、この前の子お持ち帰りしたんだってな。」
すでに出来上がった友達がいきなり俺の隣に割り込んできて、俺に顔を寄せる。
「はあ、なんの話だよ。」
「とぼけんなってー。そんで、どうなのその後は?」
「その後?」
「ああ、出たよ。また、やり逃げ。」
「人聞き悪いこというな。」
俺はそいつの頭を小突く。
「他になんて言うんだよ。」
「うっせえよ。」
「そろそろ彼女作れよ。もうすぐ社会人だぞ。」
「てかさ、佐々木、前の彼女に戻ったら?」
他の奴が口を挟む。
「俺もそれがいいと思う。」
別の奴が言う。
「なんなんだ、てめえら。」
俺は面々の顔を睨む。
「いやあ、あんま口出しすっとこじゃねえと思ってたけど、おまえあれから酷いもんだ。」
返す言葉がない。
そんなこと、俺が一番よく解ってる。
「んなこと、わざわざ言われなくても・・・」
無性に腹が立つ。
「解ってねえだろ。わざわざ言わなきゃ・・・状況を把握してんだけだろ。おめえは。」
隣に割り込んできた奴が俺の頭を小突き返す。
「連絡しろ。行動すんだよ、ばーか。」
「っせえな、いいんだよ。ほっといてくれ。」
俺は持っていた酒をぐっと仰ぐ。
そっからはほとんど記憶がない。
目が覚めるとその家の住人以外の奴はいなくなってた。
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