好きになったヒト
第7章 未練1
気付いてたか、さすが。
俺は頷く。
ユズルさんはこの仕事をする気はないと言っていた。
今頃は就職活動まっただ中なんだろうな。もう内定をもらっている頃かもしれない。
タカヤさんはやっぱりユズルさんの気持ちには全く気が付いていないのだろうな。
でも、もしあの時タカヤさんがユズルさんを追いかけていたら、俺とユズルさんの距離が近づくこともなく今のような関係にはなっていなかっただろう。
待つと決めたけれど、それでもなんの確証もない相手を待つのは簡単じゃない。不安と焦燥でかき乱されるのを押さえて平静を装って毎日を過ごしている。
ユズルさん。会いたい。俺は無意識に目を閉じていた。
「どうした?マナト」
「え・・・ああ、いえ。昔の事を思い出してたんです。懐かしいなと思って。」
「懐かしいなぁ。」
「毎日冒険気分だったよ。」
タカヤさんはうれしそうに言う。
冒険。確かに、俺達のしていた仕事は非日常だ。
「そうですね。みんなそれぞれに正義を持って活動してましたから。」
「こっちの事務所開きしたら、ティーン部に顔出すぞ。」
「ティーン部?」
「ああ、言ったろ。あっちの管理もすることになるって。」
ティーン部ね。未成年部隊のか。
「そうでしたね。楽しみだな。もう知ってる子はいないだろうけど。まだあそこにあるんですか?」
「ああ、場所は変わってない。」
「顔出してます?」
「いいや。一応引退後は出入り禁止だろ。成人だし。」
「そうですか。ってことはつまり藤村さんの代わりになるってことですよね。」
「そういうことだ。現職の警官が出入りしてるのは正直いろいろ危険だからな。俺達は民間だから何かあって掴まってもいざとなれば切り捨てられる。」
「・・・・。」
俺は一瞬絶句した。そういうからくりなのか・・・。
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