好きになったヒト
第6章 恋愛5
「どうしたんだ?」
「いえ、久しぶりだったんで、会いたかったんです。」
「彼もそんなことを言ってたな。全然会ってないって。」
アツキさんが心配そうに俺を見てる。
ああ、また心配を掛けてるな・・・。
「まあ、電話したんで、そのうち掛ってくると思うんで。」
俺は笑顔を作る。
「その顔、やめろ。」
「え?」
「何年の付き合いだと思ってる。おまえが無理して笑ってるのくらいお見通しだ。」
アツキさんは俺を真剣な目で見つめてくる。
この人には通用しないか。
「なんのことですか。」
俺は余裕を装って応える。
「マナト。」
俺を咎めるように名前を呼ぶ。
「新曲ほんとうにありがとうございました。またお願いします。もうちょっと新しい曲ほしくなったんで、あと二、三曲書いてくださいよ。急がないんで。」
それでも誤魔化したくなる。立ち入られるのは好きじゃない。
アツキさんは諦めたように、ため息を吐く。
「ああ、わかった。ゆっくりでいいなら、一緒にやろう。」
「ほんとですか?やった。」
俺はピースサインを作ってしゃいでみせる。
アツキさんが了承してくれたのは本当にうれしい。
ユズルさんからの連絡はないまま日々が過ぎて行く。
どうして、来たんだろう。
どうして、何を確かめに来た?
季節はもう秋だ。
6月生まれの俺は、5月には引退した。
一緒にリホちゃんとトキオくんも引退。高校生メンバーだけになったけれど、順調に増員もしていたし、なんとかなるだろう。
仕事は相変わらず忙しいくて余裕もない。
このままこうして終わるのかもしれないという不安と諦めが少しずつ増えて行く。
もしかしてこういうことに慣れて行くことが、大人になるということなのだろうか。
タカヤさんとは時々会って食事をしながら、今後のことを話し合っている。
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