好きになったヒト
第5章 恋愛4
あれ以来、マナトは藤原さんのことは一切言わなくなった。俺も終わったことだと思って聞いたことがない。
さっき聞いた、マナトの新曲のフレーズが頭に浮かぶ。
“二人の心が通じたことは
希望なのに“
“麗しの人 どこへ行くの“
“こんなに呼んでも
まだ応えないつもり
あなたの残した安らぎはいまも ここに“
あいつは今も藤原さんへの想いを断ち切っていないのかもしれない。
今まで気にしたことはあまりなかったけれど
あのとき俺が行くなと言わなければ、間違いなくマナトは藤原さんに会いに行っていたし、藤原さんのほうだってマナトに会いに来くるつもりだったんだ。
邪魔をしたのは、俺。
なのに、今の俺はマナトの傍にいる勇気も自信もない。
また、いやな考えが頭の中を回り始める。
ステージに立つマナトを見た時は、フロアへ下りて来るのを待って声を掛けようかと一瞬迷った。
でも、今の俺ではあいつを受け止めてやれない。
行くなと言われて、留まってやれなかった。
自分の意地を、自尊心を優先してしまう。マナトに溺れそうで恐い。
それは俺が自分に自信がないから・・・。
昔きっと藤原さんはマナトを救ったんだ。
高校生のときのマナトは藤原さんに夢中だった。
チクリと胸が痛む。
やめよう。
俺は携帯を開いて友達に電話を掛ける。
こういうときは一人でいない方がいい。
考えたってしょうがないんだ。
36