好きになったヒト
第4章 恋愛3
奥から女の子が現れる。
ユズルさんの傍へよって何かを耳打ちする。
二人は何か秘密の話でもしたように笑い合う。
狭いカウンターの中で身を寄せた二人が妙に親密に見えてしまう。
なんとなく寂しい気持ちになる。
俺は目を逸らして、時計を見る。時刻は8時過ぎ。
事務所に顔でも出すかな。
ここのところ全く顔をだせてなかったけれど、まだ引退はしていない。
俺は席を立つ。
ユズルさんが俺に気がついてレジに来てくれる。
「もう帰るの?」
俺を見るユズルさんの顔。
「はい。顔見れたし。」
俺は素直な感想を言う。
ははっとユズルさんは少し照れ臭そうに笑う。
「コーヒーは俺の奢り。」
笑った顔が愛おしい。バイトの子達との約束なんかやめて俺と居てと言いたくなる。
ぐっとその言葉を飲み込む。
「そうだ、日曜だけど、ごめん。結局夜は出なきゃならなくなった。それと、明日は一日ここだ。一人辞めちまって、今日はその送別会。」
ユズルさんが言う。
俺は頷く。
「はい。俺明日はちょっと職場に顔出さなくちゃいけなくて。じゃあ、日曜起きたら電話ください。」
「わかった。」
俺は店を出る。
明日の仕事は本当はどうでもよかった。
ただ、ユズルさんがバイトなら、少し片付けに行こう、そう思っただけ。
結局、事務所には寄らずに帰った。
日曜日ユズルさんから連絡があったのは、午後になってから。
「ごめん、マナト。寝過した。」
「いえ、大丈夫ですか?」
「ああ、昨日はオールだったから、終わってからもバイトの子に引っ張られて。」
「そう。じゃあ、今日はどうする?」
「俺、夜出なきゃなんねえからな。あんま時間ねえけど、今から行って平気?」
「いいですよ。」
玄関を開けると、ユズルさんは寝起きの顔で立っていた。
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