好きなヒト
第13章 再生2
「俺が口を挟む事じゃないのはわかってます。でも、藤原さんがいなくなってからのあいつを知ってるから、言わせて貰います。ボロボロでしたよ。成績もガタガタ、食欲もなくて・・・しっかりしてるっていいましたよね。しっかりしてるあいつがそんなだったんです。だから、会わないと約束してください。」
「弁解をする資格もないと?」
「藤原さんも結婚したなら、もうマナトのことはいいでしょう。あなたは軽い気持ちかもしれないけれど、あいつは真剣なんですから。」
「軽いだと?」
「違うんですか。」
「遊びだったら、何も好き好んでバレたら問題になるような、あのメンバーの中の奴に手を出すと思うか。俺は警察官だぞ。」
「本気だったと?」
「当たり前だ。」
「だったら、マナトのために会わないという選択ができますよね。」
「ずいぶん仲が良かったんだな、おまえたち。全然知らなかった。付き合ってるのか?」
「友達です。マナトがあんまりボロボロだったんで、ほっとけなくてそっからです。」
「そうか。会うつもりだったが、おまえがそこまで言うなら会わないと約束する。そのかわり、あいつのことを頼む。あいつはけっこうモロいところがあるから傍にいてやってくれ。あの日、俺に会おうとしなかったあいつの気持ちがずっとわからなかったんだ。そうだな、もう会わない方がいい。あいつのために俺はいないほうがいい。」
藤原さんは穏やかに話しているけれど、それがかえって痛々しい。
余計なことをしているのかもしれないと、ふいに自信がなくなってくる。
でも、今会ったら、きっとマナトはまた藤原さんの下へ戻るだろう。それがマナトにとって幸せなことだとは思えない。
藤原さんには家庭があるんだ。
「ありがとうございます。そういえば、すみません。仕事中じゃ。」
「ああ、大丈夫、仕事中じゃない。」
「そうですか。じゃあ、俺はこれで。コーヒーご馳走様です。」
「ああ、元気でな。」
俺は店を出た。
会うつもりだったのか・・・。というか、藤原さんも本気だったんだ。
マナト。俺は勝手なことをした。
これは本当は二人の問題で俺を口を出すべきじゃなかったと、自責の念に駆られる。
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