好きなヒト
第13章 再生2
まだ5月だ。タカヤが離れるまでに最低一人はいれないと・・・で、秋までには二人はそろわないとマナトの負担が重い。
・・・と、結局仕事こと考えてるな・・・俺引退したのに。
タカヤが抜けるなら、交替で戻ろうかな・・・。
そんな考えも頭を過ぎる。
それはちょっと酷いよな。タカヤは気にしないだろうけど。
数日後、俺は夜遅くバイト帰り駅へ向かって街中を歩いていた。
あれは・・・。通りの角から出て来た男に見覚えがあった。
見間違えか?
後を追う。
週末で、まだ街は賑わっている。
雑踏に紛れてしまう。
俺は見失った辺りを見回す。
見間違い・・・かな。
諦めて戻ろうとしたとき、ちょうど向かいの喫茶店にその姿を見つけた。
一人か。
俺は通りを横切って、その店へ向かう。
まさか、この街にいたとは・・・異動になったっていうから、遠くへ行ったんだとばかり思ってた。
店に入って奴を探す。
一人でボックス座っている。
俺はそのテーブルへ向かう。
俺がテーブルの前に立つと、藤原さんは驚いた顔をした。
「ユズル。」
「この街にいたんですね。」
「久しぶりだな。元気だったか。」
「異動になったてのは嘘ですか。単なる担当替え?」
「いや、異動になった。まあ座れ。コーヒーでいいか?出張に来てるだけだ。」
藤原さんは俺の分のコーヒーも注文してくれる。
「出張?」
「ああ。」
「みんな元気か?前に藤村からマナトが頑張ってるって聞いたよ。」
藤原さんの口から簡単にマナトの名前が出たことが一瞬信じられなかった。
「俺は卒業と同時に引退したんで。」
「そうか、そうだな。おまえ今は大学生か。」
「はい。」
「残らなかったのか?タカヤが残ってほしがってたのに。」
「はい。タカヤももう引退ですよ。」
「そうだな。二十歳か。」
「いつまで、いるんですか。」
「あと数日かな。マナトは元気にしてるか?おまえが抜けて、タカヤも抜けるんじゃ不安がってるだろう。あいつは自分を過小評価するから。」
その通りだ。さすが、マナトのことをよく解ってる。それも、腹が立つ。
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