好きなヒト
好きなヒト
成人向完結
発行者:iroha
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2011/09/09
最終更新日:---

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好きなヒト 第10章 迷う心3
「あ、あのっ、ユズルさんっ」
俺は叫ぶ。

えっと、えっと、つまり・・・俺はタカヤさんを見る。
タカヤさんはきょとんとしてる。

俺はタカヤさんの腕から逃れて、ドアを指差す。

「タカヤさんっ、追いかけてくださいっ。」
「え・・・なんで?」
「なんでもっ。」
俺はタカヤさんを立ち上がらせようと引っ張る。
「大丈夫だって、その内戻って来るって。打ち合わせあるんだし。」
と、暢気な事を言ってる。

だめだ。
全然状況をわかってない。
どうしよう。でも・・・ほっとけない、あの顔。

“可能性がないから”と言ったユズルさんの顔が浮かぶ。

俺は部屋を飛び出して走る。
もうユズルさんの姿はない。
エレベータへ走る。
ちょうどエレベータの扉が開いて人が降りてくる。

藤原さん。

会いたかった。ずっと、本当に。
このまま飛び付きたい。
でも。

藤原さんは、俺が走って来るので驚いているようだ。
エレベータから降りて立ち止まっている藤原さんの横をすり抜けつつ叫ぶ。
「すみませんっ。」
“後でっ”と繋げるつもりが、なぜかその一言を飲み込んだ。

すれ違い様の藤原さんの表情がスローモーションで俺の視界に焼き付く。
俺を追う視線。戸惑った表情。
「マナトっ」
俺を呼ぶ声が響く。
妙に印象的に。

頭の奥で警報が鳴る。

けれど、俺は立ち止まらなかった。
ユズルさんを放っておけない。
そのまま階段を駆け下りて、走る。
走りながら、ユズルさんを探す。
探しながらも、さっきの藤原さんの顔が頭に焼き付いて離れない。
俺を呼んだ声が耳の奥にこだまする。

嫌な予感。
わかってる。そういうことだ。
だから、立ち止まれなかった。
恐くて・・・。

しばらく走ったところにある公園でユズルさんを見つけた。
俺は息を整えながら、近づく。

ユズルさんは俺に気が付くと立ち去ろうとする。
逃げようとする腕を掴む。
「誤解です。」
「なにが・・・俺は別に・・・。」

あ。
ユズルさん、泣いてる。
どうしよう。

「離せって。」
俺の手を振り払う。

払われた手でもう一度ユズルさんの腕を掴んで、抱き寄せる。
ユズルさんの動揺が伝わってくる。

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