好きなヒト
第8章 迷う心1
「マナトの件は?どうなった?」
俺はなんとか誤魔化そうと話題を変える。
「え。ああ、一応続いてるよ。でも、俺達の手に負えるもんじゃなさそうだ。こっちへ下す段階でもかなり迷ったらしい。なんか、キナ臭い。」
「そうか。そうだよな、今さら薬って。」
「うん。」
タカヤはベンチから立ち上がる。
「ユズル、お前進路決めたか?」
「え?」
いきなり関係ないところへ話が飛んだので、話の真意が見えない。
「大学進学、すんの?」
「ああっと、たぶん。」
「じゃあ、残れよ。」
「え。」
「俺みたいに。学生なら続けられるだろ。まあ、大学によるだろうけど。」
思いがけないオファー。
当初は高校卒業と同時に辞める予定でいた。けれど、今となっては、正直迷っていた。
「なんで?」
「なんでって、残ってほしいから。」
その一言が、俺を舞い上がらせる。うれしい。タカヤがそんなことを言うとは思わなった。
「ほら、最近けっこういい感じに回ってるし。お前と俺とマナト。三人とも経験が伴ってきただろ。この前藤原さんと話してたんだ。」
「藤原さんと?」
俺は藤原さんとマナトのことを思い出す。
タカヤに話してみようか。
「ああ、俺たちのチーム。今俺達三人が主力だって知ってた?」
「え、そうなの?」
「ああ、他も動いてるけど、重要なのは全部俺達三人に回ってきてる。」
「全然、知らなかった。」
「お前さ、俺たちのやってることがなんなのか、気にならないか。本来なら未成年使って捜査の真似事させるなんてありえないだろ。」
タカヤの表情は真剣。
そりゃ、そうなんだけど、そんなことは承知の上で入ったわけだし。
「どういうこと?なんかあんのか?」
「うん、いろいろな。お前高校生だからまだ話せないけどさ。長くいるといろいろ見えてくる。」
長くって言っても、たった1年だろ。
そう思ってすぐ、1年ってけっこういろんなことができると言ったタカヤの言葉が胸を刺す。
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