好きなヒト
第1章 はじまり
事務所は小さなテナントビルの三階にある。
五階建てで、元々はアパートだったのを事務所に作り変えたらしく、その名残でシャワーがあるらしい。
各フロアに一部屋ずつ。
一階と二階はサプリメントの通販会社。
四階は空いていて、五階は眼科が入っている。
中心街の裏側にあり、少し胡散臭い雰囲気がある建物が並ぶ。古いテナントビルとアパートが不規則に並び人通りも少ない。
歩いて行ける範囲に予備校が二軒あるので、制服でうろついても違和感はない。その辺は考えられている。
マックに向かって歩く。
またあの人のことが頭に浮かぶ。
オレの名前を呼ぶ声。
触れられた指の感触。
あの人の匂い。唇。
息が詰まる。オレはいつの間にか立ち止まっていた。目を閉じて気持ちを落ち着かせる。
こんなに全部、支配されるような感情…初めてだ。
会いたい。
だめだ、自分を見失いそうな不安。
気を取り直して歩き出す。
4