好きなヒト
第6章 繋がり4
俺は自分の爪を眺める。
左手の中指と人指し指が黒と紫のストライプになってる。薬指にはドクロ。
「おお、ありがとうございます。」
俺も満足そうに言う。
ちょうどお客さんが来たらしく、スタッフが声を掛けに来た。
「ありがとうございました。じゃあ、俺はこれで。また来ます。」
頭を下げる。
「マナト、絶対手で出すなよ。俺が入れてないんだ、意味わかるな。」
アツキさんが真剣な目で俺をじっと見る。
俺は無言で頷いて、部屋を出た。
休憩室には違うスタッフがいたので、挨拶をして帰る。
やばいってことね。
アツキさんは何か知ってるんだろうけど、言える立場じゃないんだろうな。
末端だからな。
アツキさんは末端の売人だけれど、ネイリストとしての仕事のほうが本業で、馴染みの客にちょっと捌いている程度。だから、悪意のある売り方はしない。相手も選んでる。
つまり、なんらかの害がある。害か。ドラックなんてどれも害がるけど。
やっぱり、いままでのスピードやLDSとは違うみたいだ。それなら、アツキさんはそう言った筈だ。
アツキさんとは古い付き合いだ。
俺が4年前、俺がよく行っていたライブハウスで知り合った。
アツキさんはそのライブハウスで手伝いをしてた。その時既にホストの仕事をしていたらしいけれど、俺はその頃そんなことは知らなかった。
やっぱりアツキさんのところに最初に来て正解だったな。
やばいっていいながらも、俺を心配してそれを言ってしまうんだから。やばいってことを漏らすのもやばいだろうに。あんまりお人好しだとこっちが心配になる。
アツキさんが入れてない薬。
わざと入れないのか、入って来ないのか。学生の間に出回ってるんなら手入らないもんじゃない。わざとか。
携帯を開く。
メールが来てる。着信も。
着信はタカヤさん。
メールは、藤原さんとタカヤさん。
藤原さんのメールをまず開く。
“くれぐれも気をつけろよ。”
俺が今日から廻るから、心配してくれたんだ。
俺達のことが解るような文言は禁止されているから、一言だけ。
俺は、ありがとうございますと返す。
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