夜想倶楽部 鉄哉編
夜想倶楽部 鉄哉編
成人向完結
発行者:とりさん
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/09/03
最終更新日:---

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夜想倶楽部 鉄哉編 第1章 序章 鉄哉とチョロ太
 戦後の混乱期の中、人々は己が生きるのに精一杯だった。絶望の中の退廃。それでも残る未来への希望のエネルギー。そんな混沌のるつぼの中に人々は生きていた。混沌を力として光をつかむ者、なすすべもなく闇にたたき込まれる者。生まれ持った運命が、人々をいずれにかいざなう。

 ドブネズミのように頭から足の指先まで汚れた、小さな男の子が、細い路地から露店の並ぶ雑踏を窺っていた。
 小太りの婦人が、尻を振りながら彼の鼻先を横切る。弾丸のように飛び出した小さな少年は、婦人に体当たりし、彼女が持っていた包みから小袋や果物などが路上に転がった。

 少年はきょろきょろとそれを見回し、どれを拾おうかと逡巡する。

 婦人がけたたましい悲鳴を上げるや、昼下がりの雑踏のこと、道行く人々の注目が集まり、小さな少年はたちまち怯えた。足がすくむ。
「太えガキだ。泥棒め、ヤキ入れてやるぜ」
 若く大柄で太り肉(じし)の男が、少年の細い腕をつかむ。
「いててててっ!……助けて、許してよう……」

 その時、男の背後で声がした。
「太えのはお前の方だろ。そんなチビ相手に力むなよ」
「何を……」
 振り向いた先には、誰もいない。それもそのはずだ。声を掛けたのもまた、少年だったからだ。今彼が捕まえているドブネズミのような汚れた少年に比べれば、倍ほどの体格はあるが、大柄の大人と視線が並ぶはずがない。
 少年は俊敏に男の横にまわり、すりこぎのような短い棒の先端で男の横腹を強く突く。男が「ぐっ」と苦悶の声をあげ、くずおれあっけにとられる隙に、棒を捨て、チビを脇に抱え、婦人の財布らしき布袋だけをさっと拾い、疾風(はやて)のように細い路地に消えた。
「乞食野郎のガキ……二匹……あっちだ、ちっくしょうめ……」
 男は路上でもがきながら指を指したが、泣き叫ぶ婦人共々、誰も振り返る者はいなかった。

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