ダークセル
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成人向完結
発行者:とりさん
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ジャンル:その他

公開開始日:2011/08/29
最終更新日:---

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ダークセル 第2章 Ⅰ memories - 1
 ただ、猛雄の父は最初の柔道着こそ奮発してくれたものの、あとはほとんど月謝を払わなかった。
 ところが、猛雄にとっておそらく非常に幸運だったことに、熱心に練習した猛雄は、道場の師範に好かれた。そして師範のスポンサーである地域の有力者の区会議員は、月謝の未払いに目をつぶってくれ、猛雄は柔道を続けることができたのである。
 練習だけではない。家ではろくな食事をとれなくてやせっぽちだった猛雄は、給食と、練習日、道場の師範がふるまってくれる夕食とで、ようやく年相応以上の頑強な肉体に育つことができたのだ。

 父親のなれなかった自分、強く逞しい男に、猛雄は一歩一歩前進していった。

 だが父親には、根本的な誤算というか、間違いがあった。

 猛雄が強くなりたいと思った最大の動機は、いつか父親を逆転することだった。父親の暴力に怯えず、おどおどせずに暮らしたかった。さらに言えば、父親に復讐したかったのだ。
 いつかこの男を、立ち上がれなくなるほど叩きのめしてやると、猛雄は強く念じながら、父親の暴力と厳しい練習に耐え、着々と力をつけていったのだ。

 中一の夏だった。猛雄の身長は一六〇センチ弱で、同学年では大柄だったがまだ父親より背は低かった。しかし思春期を迎え、陰毛も生え、声も掠れ、筋骨のたくましさは夏の装いでなくても外目に十分わかるほどになっていた。

 ささいなことからいつものごとく父親がキレ、猛雄にビールの入ったコップを投げつけてちゃぶ台をひっくりがえした。二人が立ち上がって、にらみ合いのようになった。そして、猛雄は父親の目に、確かにかすかな怯えを見た。
 次の瞬間、猛雄は父親に飛びかかり、組み敷いて拳で思い切り父親の鼻を殴りつけた。うめいて転がった父親が再び猛雄の方を見てからだを起こそうとしたが、したたかに鼻血が流れ、汗みずくのシャツを赤く染めていた。
 猛雄はそのシャツの襟首を持って父親のからだをぐいと持ち上げて、壁に叩きつけた。
「……やめてくれ! 許してくれ……」というべそをかくような情けない言葉を聞き、気持ちがしらけるまで、猛雄は壁際に押しつけた父親の顔を殴り続けていた。

 この日を境に、父子の力関係は逆転した。猛雄は二度と父親からの暴力を受けなかった。だが血を分けた自分の父親が、自分に恐れを抱いているのを見て、いい気持ちがするものでもなかった。
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