アストラルの森2/聖人間工房
第1章 第1章・妄想回路
翔子は遼介の顔を覗き込むように、少し
小首を傾げながら言った。
「まあ、多少は・・・」
遼介は曖昧に言葉を濁した。実際には手に
取った事すら無かった。
「今の世の中、ひどいと思いませんか?」
「ええ・・・」
「戦争と自爆テロ、親殺し、子殺し、通り魔
殺人、核兵器、乱れた性関係。みんな人間の
エゴが引き起こしている地獄です。」
翔子は少し顔を曇らせ、キッパリとした
口調で言った。遼介は自分が怒られている気分
になった。そして恥ずかしくなった。おそらく
は10歳ほど年下の彼女が、真剣に今の社会に
ついて憂いている。それなのに自分は、そんな
事にはまるで無関心だった。遼介は冷や汗を
かいた。それに、可愛い顔のぽっちゃりした
唇から、乱れた性関係などという言葉が出て
くるとは意外だった。遼介の頭の中を、今まで
見続けてきた膨大な量のアダルト映像が、
走馬灯のように駆け抜けた。
遼介は翔子の姿を見、言葉を聞いているうちに、
今の自分が泥と塵にまみれた汚物のように感じ
られた。日夜自分の中に湧き上がる淫らな妄想。
それは翔子が語るような、地獄の光景なのかも
しれない。地獄に棲むのは悪魔と相場が決まって
いる。
━俺は今まで悪魔に操られていたのか・・・━
宗教的素養の無い遼介だが、そんなイメージ
は湧いた。彼はかねがね疑問に思っていた事を、
翔子に質問してみる事にした。
「あの・・・天国というのは本当にあるので
しょうか?」
遼介の極度に思い詰めたような表情を見て、
翔子は柔らかく微笑みながら静かに頷いた。
「そこにはイエス様がおられます。」
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