イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
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発行者:桜乃花
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2011/03/07
最終更新日:2014/09/10 23:00

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イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ 第1章 イルバシット
俺は打ち込み続けた。


闇雲に。


自分の方が下だと思い込まされてしまった証拠だ。


最初にするべき力比べを怠り、心は不安を感じていた。


それは、シスに負けることへのものではなかった。


リリアの観戦している席の、僅か十か二十か右の席に、暗殺者のボスが座っている事への不安だ。


二人の間に行きたい。


リリアに降りかかるまがまがしいものを、俺の手で振り払いたい。


それが叶わない不安だ。


試合の時、一番邪魔になる感情。



心の中は、暗い雲に覆われて行った。


打ち込む度に、隙が生まれる。


先手を取った為に、俺の隙を相手に見せてしまう。


もはや徐々に劣勢が際立つばかり。


誰かが、俺の名を呼ぶ。

王子と戦う俺の名を呼ぶ者がいる。


もう、力では勝てないくらい、追い込まれていた。


しかし、負けは認めない。


悔しさから、俺の吐き出す声はうわずり、聞くにたえない。


それでも、俺を呼んでくれる声がする。


ラスカニアは膿んでなんかいない。



「ラスカニアは膿んでなんかいないぞ。もっと前を見ろ!」


俺はシスに言おうとしたが、その声はかすれてしまい、届かなかった。



試合に負けるとき、勝つとき、どちらにも意味はあるんだろう。



しかし、負けて自身が傷つけられるのは、とても痛い事だ。


俺は負ける事が嫌いだ。


負けが決まっていたとしても、一本とられるまでは、負けを認めない。


特に、相手がゾラの時は。


後ずさり、また押されながらも、俺はシスの剣を払いのけ続けた。


俺は頑張った。


息を切らし、呼吸を乱し、汗を流しながら。


俺の名を呼ぶ声の中に、俺はリリアの声を聞いた気がした。


戦士さん、頑張って!


そう聞こえた。


後ずさり、剣を払う、また打ち込まれ、後ずさる。


石の壁まであとどれくらいだろう?


それまでの命。


ぜいぜいと息をしながら、俺はまだ負けていなかった。




「ゾルジ・バナー。そこまでになさい。勝ちは、シスとします。あなたは良くやりました。しかし、これ以上は、未来のあなたの為にならないわ」

女神の声は、途切れ途切れに消えて行った。
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