父さんも母さんもアイシテル
第1章 父さんの想い
……
「ごはんできてるよ。」
父さんが笑顔で、シャワーを浴びてダイニングに入った僕と母さんに言った。
「お腹すいたろう。」
そう言って、鍋の中のビーフシチューをかき混ぜていた。
「父さん…今日、僕が担当だったのに…」
僕が父さんの傍に行ってそう言うと、父さんは「いいんだよ。」と僕に笑った。
「父さんがビーフシチュー食べたかっただけなんだ。お前は明日してくれるかい?」
「うん…ごめんね、父さん。」
「お前は本当にいい子だよ。」
父さんが僕の頭を撫でた。僕は微笑んで母さんの隣に座った。
「いい匂いだわー。お父さんのシチューはレストランで食べるより美味しいものね。」
「うん!」
父さんが照れくさそうにこちらを向いて笑った。
…そして、3人でバカみたいな話をして笑いながら、父さんのシチューを食べた。
本当に幸せだった…。…この日までは…。
……
父さんがいなくなったのは、シチューを食べた次の日の朝だった。
早めに仕事に行ったのだと思っていたが、何かを感じた母さんが、父さんの会社に電話をしてみると、母さんの予感通り父さんは出社していなかった。
携帯電話も通じなかった。電源を切っているようなアナウンスしか返ってこない。
僕は仕事を休んで、震える母さんの背を撫でていた。
(どうして…?…いつもと変わらなかったのに…)
僕はそう思いながら、ただただ母さんの背を撫でていた。
その時、食器棚のスプーンを入れている引き出しから、白い紙が出ていることに気がついた。
「?」
僕は立ち上がって、引き出しを開けた。
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