桜花飛翔
第1章 芽生える桜―wakes up―
少女は手探りで電気のスイッチを探し明かりを点ける。しかし、部屋の配置が全く分からない。新築の家に来た気分だ。鞄の中からメモ帳とボールペンを取り出し、一通り部屋を周りながら地図を作成した。自室と思われる部屋に荷物を置きベッドに飛び込む。途端に疲労が押し寄せ眠気が少女を襲った。
ロックが掛けられ待ち受けしか見られない携帯を握り締める。待ち受けにされた一枚の写メ。それを見ていると何故だかすごく落ち着くのだ。満開の桜と嬉しそうに笑う少女。少女は携帯を抱き締めるように体を丸め眠りについた。
少女は3時間もしないうちに目を覚ました。体が重く体調が優れない。再び眠ろうと目を瞑るが、完全に目が覚めてしまったらしく、眠る事が出来ない。ゆっくりと体を起き上がらせる。背筋に寒気を感じ振り向く。
何も無い。
違和感を覚え、薄いロングコートに袖を通した。ベッドから降りると辺りを見回す。やはり何も居ない。部屋を出ると右手にある階段を降りていく。軋む音がやけに響いている。月明かりを頼りに通路を進みキッチンへ向かう。グラスいっぱいに水を入れ一気に体内へ流し込む。暑い訳でもなく逆に寒いのに玉汗が浮かんでいる。家の中に居るのが怖くなり外へ出た。
それでも違和感は消えない。まるで背後に纏わり付いているかの様。周りの地形が分からない。だが、この場に居るよりマシだとばかりに体が自然と歩み出した。何かから逃げる様に。
歩みが止まり唐突に頭から危険信号が出た。挟まれた、と。何にかは少女も分からない。何かが少女に告げているのだ。
少女はゆっくりと民家の塀へと後退る。追い詰められていく。
「ころ、され……る」
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