僕は知っている
第8章 第七章 僕と唐川、そして友也-1
きっちり二十分後に、電話がかかってきた。だが、それは少年の声ではなく、低く張りのある男の声だった。
「場所は都内のマンションです。二時には到着したい。今から一時間以内にはお迎えにあがりますので、軽く昼飯を済ませておいてもらえますか」
「お迎えに?」
そうだ。彼らは僕の住処を知っているのだ。男の口調は慇懃だったが、張りのある低い声は説明不能の威圧感に満ちていた。カタギでない匂いがする。危険を知らせる警報装置が僕の頭の後ろの方で鳴り響いていたが、今さら後には引けない。
僕は電話を置き、早足で近所のコンビニに行って、適当な弁当を買って帰宅し、それを食べて、シャワーを浴び、髭を剃り、歯を磨いた。そうして心を落ち着かせた。手近なポロシャツと綿パンを身につけて、「お迎え」が来るのを待った。
電話から五十分きっかりで、外に車の音がした。出てみると、それは真っ赤なポルシェだった。このうらぶれた住宅街には目立ちすぎる乗り物だ。おまけに左ハンドルだった。
車から降りてきたのは、赤いジャケットにサングラスの男だった。もちろん黒崎は知る由もないが、彼は五年前からトレードマークを変えていない。ただしもちろん五年前と全く同じ服を着ているわけではないが。ただ、アニメーションの主人公は歳をとらないが、彼は年相応の貫禄を備えていた。
「黒崎先生ですね? 唐川と言います。友也君の友達です。助手席に乗っていただけますか? 狭くて申し訳ないが」
直に聞くと彼の声はより一層威圧感のある低音だった。僕は無言で右側の席に乗り込んだ。
ポルシェといえば高級車だろうが、スポーツカーというものは乗り心地がよいものではない。天井は低く圧迫感があったし、一般的な日本車より、サスもかなり硬い気がする。
「唐川さん?」
「はい、なんでしょう?」
唐川はスポーツカー向きではない住宅街の隘路を、注意深く運転しながら返事した。
「僕は唐川さんに何か質問しても構わないのでしょうか?」
唐川はサングラスを中指でちょっとあげて、またハンドルを握った。
「友也君のことならば、僕が責任を持って答えられることは何一つありません。ただ一つ、ありがちな誤解を解くためにあらかじめ申し上げておくならば、僕はこの場では、特に重要な存在ではないのです」
「というと?」
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NIGHT
LOUNGE5060