■彼女ノ啼キ恋■
第1章 夏と呼ぶにはまだ早いはずの4月。
やたらとよく晴れた、暖かいを通り越した茹だるような暑さの続いた日だった。
街ではモコモコに着込んでいた女性たちが腕や脚を出した
涼しげで、まるで誘っているかのような服装になっていた。
暑さで全く集中できず全く捗らない残業中の仕事を抜け出して
オフィスの屋上で愛煙のセブンスターのメンソールを
―メンソールを男が吸うとインポになる訳がない―などと下らないことをぼうっと考えながら煙らせていた夏目が声を発した。
その視線の先にいたのは
普段なら決して目に留まることはないだろう、真っ黒いストレートの髪を靡かせた、大量の買い物袋を両手に持った女子高生だった。
たった50メートルを歩くのに何度も躓くような、明らかにドジそうな子だった。
―ジャンケンにでも負けたか―
夏目はフィルター近くまで吸った煙草を革靴の裏でもみ消し、とうに飲み干してしまったコーヒーの入っていた空き缶に捨てた。
―戻ろ―
女子高生がちゃんと学校に戻れるかを気にしながらも、自分はまだ仕事中だと気づいてしまった夏目は踵を返し歩き出した。
途端に耳に飛び込んだのは悲鳴だった。
夏目は返したばかりの踵をまた返しつい先ほどまでいた場所に戻り女子高生を探した。
先ほどまで持っていた大量の荷物を傍らに置き女子高生はうずくまっていた。
―怪我でもしたのか?―
女子高生が心配で気が気ではなくなった夏目はオフィス内までダッシュした。
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