梨乃3 痴女編
第1章 1
どの車両にもほとんど乗客は乗っていなかった。
一時間に一本という少ない本数であるが、それ以上にとにかく利用者数の少ない路線であるし、それにもう夜も十時を過ぎているためである。
電車の走行音に、隙間から入り込む風の音、それに静々としたスニーカーの靴音が紛れていた。
車両の中央を、少女が歩いている。靴音の主だ。
なんだかそわそわとした落ち着きのない態度、おどおどとした表情であった。
車両には他に、三、四人ほどの乗客の姿。
少女はそのまま歩き続け、次の車両へと進んだ。
乗客は一人しかいないが、女性客だ。
ダメだ。次。
次の車両には、二十代前半と見えるなんだかひ弱そうな、俗にいう草食系といった雰囲気の男性が一人。
どくん。
少女の心臓は、大きく跳ね上がった。
ゆっくりとその席まで歩み寄ると、バッグを下に置き、ボックスシートの対面に座った。
男性は携帯ゲームに興じていたが、ちょっと首を上げて、車内を確認した。
こんなガラガラなのに何故、と思ったのであろう。
ちょっといぶかしげな表情を浮かべたものの、相手が十代と思われる女の子であることに、気にせぬ振りをして、また視線を携帯ゲームに戻した。
やはり気になるようで、その態度はちょっとだけ落ち着きのないものになっていたが。
対面に座った少女は、高校生くらいに見える。
私服姿だ。
ダウンジャケットに、ミニスカート。
膝より上まである長い靴下。
少女は躊躇いがちな表情で、脚をぎゅっと閉じるようにもじもじとしている。
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