前回の記事で、7/19に放送されたNHKの丸山真男特集の番組に小さな誤りがあることを指摘した。誤謬というよりも、瑕疵といった方がいいかもしれないし、制作したスタッフは、それを重大な誤りだとは認識していないだろう。助手となった丸山真男が日本政治思想史の研究を始めたことが、本人の意志と選択によるものではなく、南原繁の指示と計画によるものだったこと、その点をNHKは省略して説明を飛ばしたのだが、NHKにすれば、90分しかない番組にその経緯と事情を詰め込んで説明を膨らませるのは、全体の構成の時間配分から考えて不具合で、面倒だから端折ってしまえという判断がはたらいたのに違いない。しかし、一般向けの丸山真男論の教科書を作るときに、この事実を概説内容から落とすことは、私には到底容認できないことだ。山口二郎が言っていたように、戦後は、まさしく丸山真男(たち)が作ったから始まったのだけれど、それは実は戦前から始まっていたのであり、あのファシズムの暗黒の時代空間の中に、それに抵抗するアンチテーゼが生体として胚胎されていたのである。そのシンボリックな契機こそ、南原繁と丸山真男の出会いのドラマであり、特高体験を持った学生を庇護し、右翼の圧力に抗して新設の東洋政治思想史講座をリベラル・アカデミーに確立するべく立ち向かうという、知識人の意地と大胆不敵な挑戦に他ならない。われわれはその歴史に負っている。だから、この物語を割愛してはいけない。