1983年刊の『
現代視点 坂本龍馬』という古い本の中で、宮尾登美子が文章を寄せていて、冒頭、次のように言っている。「高知の下町に育った私が通っていた昭和尋常小学校では、戦前はずっと春の遠足は桂浜、秋は近郊の登山と決まっていたものだった。(略)校列はいきなり浜へは下りず、松の走り根をまたぎながら巌頭に立つ坂本龍馬の銅像の下に整列し、そして校長先生から龍馬についての話を毎年とっくりと聞かされるのである。(略)いまでもそうだけれど、戦前の桂浜はとくに、高知市民の何よりの憩いの場であり、小学校からさらに女学校までの遠足と、他にも数え切れないほどたびたび、私も家族と一緒に出かけたものだった」(P.60 旺文社)。校長の説話はないが、戦後も事情は基本的に同じで、桂浜は学校の遠足の定番コースになっていて、飽きもせずに何度も行く。生徒たちは浜の波打ち際で
五色の石を拾い、併設の水族館で大きなウミガメを見て時間を潰す。桂浜の遠足はバスに乗っている時間も短く、生徒たちはやや退屈でマンネリだったが、教師たちには安心で安全で無難で手頃な引率先だった。宮尾登美子はこう書いている。「土佐の春といえばもうほとんど夏で、じりじりと照りつける太陽のもとでいつも同じ話を聴かされるのはうらめしく、(略)」。この情報が実は重要なのである。高知を旅するのなら、1月から3月の季節がベストバイだ。