小説『1Q84』の感動の中心にあるものは何だろうか。私の読み方では、同じように過酷な家庭環境を強いられた10歳の青豆と天吾の出会いとラブシーン、そして青豆の天吾への「永遠の愛」である。
洋泉社のMOOKにゴムの木の花言葉の情報が載っていた。青豆が部屋で最後まで育てていたゴムの木。その花言葉は「永遠の愛」。読者にとっての村上作品への期待は、今度の作品ではラブシーンをどう描いてくるだろうかというところにある。村上春樹の小説はどれもラブシーンが印象的で素晴らしい。「手で導く」幻想的な『ノルウェイの森』。衝撃的な構図で読者を驚かせた『国境の南、太陽の西』。そして、透明な二人の心と体が異次元で音も立てずに交わって通り抜ける、クリスタルでトランスペアレントな『海辺のカフカ』のラブシーン。15歳の少年と母親ほども年の離れた女性との静謐で神聖な情愛の場面。村上春樹は新作ではどんなラブシーンを見せてくれるだろうかと思ったが、期待をはるかに超えて、度肝を抜くラブシーンがぶつけられていた。今度の二人は10歳の小学生。そしてセックスはおろかキスもないラブシーン。しかし、それはまぎれもなく人間の性愛行為なのであり、作品のキーのテーマとメッセージがここにある。