長い連休でもあり、政治を離れて音楽の話を少し。中島みゆきの作品はどれも感動的な名曲ばかりだが、私が最も好きな一曲は『
悪女』で、これ以上完成度の高い曲は他にないと思われる。完成度が高い。そう思う理由は、詞も曲も、諄さや粗さがなく、最初から最後まで寸分の隙も無駄もなく、いちど聞き始めると、途中で止めることなく最後まで聴き入ってしまうからだ。4分間、途中で中断できない。曲の半ばで関心が途切れる個所がない。退屈や窮屈を一秒も感じない。最後まで詞に織り込まれたドラマを追いかける。描かれた場面をイメージし、登場人物の状況と顛末を想像する。最後まで聴いて、余韻が残り、そこからさらに想像を逞しくし、曲の世界に感情移入し、意味を掘り下げようとする。中島みゆきの世界に惹き寄せられてシンクロナイズする。私の場合、センスや才能を感じる音楽的創造力の実体は、『悪女』のメロディラインとテンポとワーディングにある。中島みゆきの他の曲には、聞く前に緊張感を覚えると言うか、重さを受け止める準備を意識することが少なくないが、この曲にはそれがなく心地よく自然に流れる。と言うより、詞の世界の重さと哀しさに対して曲のテンポとボーカルが軽く伸びやかで、その作為された明と暗のバランス(アンバランス)が絶妙で痺れるのだ。